山猫は歌姫をめざす
【8】薔薇の微笑み
8.
防音室の壁ぎわにもたれ、未優は『ラプンツェル』を歌い、語っていた。
真夜中だった。
深く考えるのが苦手な未優は、それでも何か気がかりなことがあると、歌うことでそれを《消化》することが多かった。
夕食の席で、ふたたび愛美に謝られ、未優は首を振ってそれに応えた。
(“純血種”であることを隠して『禁忌』の“地位”にいる……)
これから先、ずっとそうして“歌姫”を続けていくのかと思うと気が重かった。
いっそ口にだしてしまおうかとも考えたが、響子の心配通り“歌姫”たちの士気にかかわり、“第三劇場”の営業に支障がでてしまっては申し訳ない。
(そう。これは、あたしが決めた道なんだ)
後ろめたくても、それを通すしかない。
“舞台”に立つ喜びを知ってしまった以上、後戻りはできないのだから───。
(うん、頑張ろう!)
自分にうなずいた時、防音室の扉が開き、留加が入って来た。
「……眠れないのか?」
「えっ……や、そういうわけじゃなくて、ちょっと考えごとしてて……。別に、留加の安眠妨げてないよね? ここ、防音室だし」
「あぁ。音ではなく、君の匂いがした」
「えっ! 嘘っ……。あたしちゃんと、お風呂入ってるよ!?」
「……君には嗅覚がないのか?」