山猫は歌姫をめざす
直球で返されて、未優は思わず噴きだした。留加が眉を上げる。
「何がおかしいんだ」
「ううん。それより、前に言いかけたことだけど──あなたに、あたしの“奏者”になって欲しいの。
一週間後に、面接を受けることにしたから」
「……“歌姫”になる決意は変わらないということか。
それなら、おれの答えも変わらない。君のために、弾こう」
真っすぐに未優を見て、留加はうなずく。胸が痛くなるほどの真摯な眼差し。
未優は甘い痛みをふりきって、笑った。
「よろしく、留加」
「あぁ。──演目は、何にするんだ? それとも、課題があるのか?」
高速の弓さばきで音階を素早くなぞりながら、留加が問う。
「好きな演目でいいって。正直、助かったけど」
「なぜだ?」
「あたし、レパートリー少ないし。
それに、あなたと合わせた感じでまた“解釈”が変わってくるかも知れない」
「同感だな。
おれは“奏者”の経験はないが、アンサンブルなら組んだことがある。違いは、そうないはずだ。
君は、君の身体を使って演奏するんだろうからな。合わせることによって変わるのは必然だろう」
未優は持って来た何冊かの“演譜”──“歌姫”が演じる神話や童話が書かれた台本──を、トートバッグから引っ張り出した。
ベンチの上に広げると、留加もそれをのぞきこんだ。
「何がおかしいんだ」
「ううん。それより、前に言いかけたことだけど──あなたに、あたしの“奏者”になって欲しいの。
一週間後に、面接を受けることにしたから」
「……“歌姫”になる決意は変わらないということか。
それなら、おれの答えも変わらない。君のために、弾こう」
真っすぐに未優を見て、留加はうなずく。胸が痛くなるほどの真摯な眼差し。
未優は甘い痛みをふりきって、笑った。
「よろしく、留加」
「あぁ。──演目は、何にするんだ? それとも、課題があるのか?」
高速の弓さばきで音階を素早くなぞりながら、留加が問う。
「好きな演目でいいって。正直、助かったけど」
「なぜだ?」
「あたし、レパートリー少ないし。
それに、あなたと合わせた感じでまた“解釈”が変わってくるかも知れない」
「同感だな。
おれは“奏者”の経験はないが、アンサンブルなら組んだことがある。違いは、そうないはずだ。
君は、君の身体を使って演奏するんだろうからな。合わせることによって変わるのは必然だろう」
未優は持って来た何冊かの“演譜”──“歌姫”が演じる神話や童話が書かれた台本──を、トートバッグから引っ張り出した。
ベンチの上に広げると、留加もそれをのぞきこんだ。