山猫は歌姫をめざす
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パジャマ姿のままソファーにゆったりと腰をかけ、足を組んだ慧一(けいいち)は、半眼に伏せた瞳で宙を見据えて言った。

「……お前にとっての俺は、地中に掘った穴なのか?」

不機嫌さを隠そうともしないのには、正当な理由がある。

月曜の今日は“第三劇場”の休館日である。朝の弱い慧一は、休みを良いことに、昼くらいまで寝ていようと考えていたのだ。

にもかかわらず、午前七時に叩き起こされ、
「王様の耳はロバの耳ーっ」
と、やられれば、腹も立つに違いなかった。

「だって……あたしの中では許容量いっぱいいっぱいなんだもん……」
「───ハードに致命的欠陥があるうえに、データ処理能力は皆無に等しいわ、データ保存してバックアップすることもできんときたか。
……まぁ、今に始まったことじゃないがな」

息をついて、慧一は目を閉じた。

そろそろ頃合いか。もう少し先の話になるかとも思っていたが、いずれ響子から打診がくるかもしれない。

「……お前、“歌姫”でいられるのは、二十歳(はたち)までだと言ったら、どうする?」

「えっ……?」
「あと三年弱だ。『禁忌』でいるのは申し訳ない、報われない片想いを抱えてるのはしんどいと言うが、その期間限定だとしたら、どうだ?
つらいだの苦しいだのと言っていられるのは今のうち、となるわけだ」
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