山猫は歌姫をめざす
【2】舞台で表現すべきもの
2.
留加はその扉を叩いた。従業員寮の清史朗の部屋だった。
清史朗は留加の顔を見ると、待ち人来たりというような、ホッとした表情を浮かべた。
「……おはようございます。ご用件は」
一瞬、言いよどんで、留加は真っすぐに清史朗を見返した。
「『王女』に……シェリーに会わせて欲しい。二人だけで」
「本来は、お客様以外の男性と二人きりでというのは引き合わせかねるのですが。『王女』本人からのご用命もございますし、承りましょう。
───そうですね。本日の二十二時に、トレーニングルームでいかがでしょう?」
清史朗は胸元から端末機を取出し、シェリーのスケジュールを確認しながら留加に問う。
留加は驚いた。
「今日頼んで、今日会ってもらえるのか?」
くすっと清史朗が笑う。
「ご用命があったと、申しましたでしょう?
『王女』からは、あなたが会いたいとおっしゃってきた時は、何を差し置いてもスケジュールの都合をつけろと、申しつけられておりましてね。
さすがに、馴染みのお客様との先約をキャンセルするわけにはまいりませんから、空いているのはそのお時間しかないのですが……よろしいでしょうか?」
「あぁ、構わない。……よろしく伝えてくれ」