山猫は歌姫をめざす
壁時計が10時を示し数十秒ほど経った頃、留加がヴァイオリンケースを片手に現れた。
シェリーは微笑んだ。
「大きくなったわね、留加」
「……返答の、しようがないんだが」
シェリーは小さく笑い返すと、留加のヴァイオリンケースを指差した。
「じゃあ、準備してちょうだい。もちろん、弾いてくれるんでしょ?」
「あぁ。調弦は済ませてある。すぐに弾ける」
言葉通り、留加はすぐにヴァイオリンを構えた。シェリーも心得たように、最初のポジションをとる。
直後、留加がその身を揺らして奏でた旋律は、ビゼーの『闘牛士の歌』だった。
シェリーは、あの頃よりも格段にあげた技術力と表現力で、情熱的なリズムを刻み、踊ってみせた。
†††††
別館のトレーニングルームへ向かう通路の途中で、未優は立ち止まる。
さきほどあわてて部屋に戻ったがために、シューズを置き忘れたのを思いだし、取りに戻って来たところだった。
最初、もし貸し切りの主が綾なら、トレーニングルームに戻るのを避けたいという気持ちがあり、未優はシャワーを浴びる準備をしていた。
しかし、物を粗末にしてはならないという母の教えが頭から離れず、こうして来たのだが。
───ヴァイオリンの音色が、した。その事実に、未優は嫌な胸騒ぎを覚えた。
シェリーは微笑んだ。
「大きくなったわね、留加」
「……返答の、しようがないんだが」
シェリーは小さく笑い返すと、留加のヴァイオリンケースを指差した。
「じゃあ、準備してちょうだい。もちろん、弾いてくれるんでしょ?」
「あぁ。調弦は済ませてある。すぐに弾ける」
言葉通り、留加はすぐにヴァイオリンを構えた。シェリーも心得たように、最初のポジションをとる。
直後、留加がその身を揺らして奏でた旋律は、ビゼーの『闘牛士の歌』だった。
シェリーは、あの頃よりも格段にあげた技術力と表現力で、情熱的なリズムを刻み、踊ってみせた。
†††††
別館のトレーニングルームへ向かう通路の途中で、未優は立ち止まる。
さきほどあわてて部屋に戻ったがために、シューズを置き忘れたのを思いだし、取りに戻って来たところだった。
最初、もし貸し切りの主が綾なら、トレーニングルームに戻るのを避けたいという気持ちがあり、未優はシャワーを浴びる準備をしていた。
しかし、物を粗末にしてはならないという母の教えが頭から離れず、こうして来たのだが。
───ヴァイオリンの音色が、した。その事実に、未優は嫌な胸騒ぎを覚えた。