山猫は歌姫をめざす

【4】閉ざされた心の弦を弾(はじ)く者


       4.

「楽しかったわね、留加。八年ぶりだなんて思えないくらい、合わせやすかった」
「……あなたとの、約束だったから弾いた。これが、弾きおさめだ」
「えぇ。解っているわ。あなたがもう、彼女以外に弾く気がないってことは。
……ごめんなさいね。あなたも、気づいていたでしょう?」
「……あぁ」

シェリーは苦笑いして、留加を見上げる。

「先に、行ってきてもいいわよ? 小さい頃の約束を律儀に守っただけで、他意はないって」
「彼女には、あとで説明するから問題ない」
「そう? 信頼してるのね、彼女のこと。そして……好きなのね?」

留加の表情がこわばるのを見てとって、シェリーは留加の胸を小突いた。

「何、その顔。認めたくないの? 認められないの?
あなたがあの子と恋愛を始められないのは、あの子が『禁忌』だからじゃないわね? 自分とは違う“種族”だからでしょう?」

シェリーに問いつめられて、留加は眉を寄せた。あえぐように、告げる。

「……そう、だ」

シェリーは息をついた。

可哀想なことをした。あの幼さで、あんな場面にでくわして……心的外傷(トラウマ)にならない方がおかしい。
だがあの時は、シェリーの方も自分のことで手一杯だったのだ。

「留加。ひとつ、いいかしら?
あなた、私を不幸だと思ってるんじゃない?」

留加は目を(みは)った。言葉がでてこない。
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