山猫は歌姫をめざす
【2】束縛と愛情の押し売り
2.
「ブラーヴァ!」
無邪気な明るさを宿した声と、拍手が、遠巻きに二人を見ていた観衆の合間から、届く。
つられたように拍手の渦が広がり、未優はいつの間にか集まっていた人々の輪を見回した。
笑顔で手を叩いてくれる見知らぬ人達に、少し照れながらも、いつか見た“歌姫”を真似て、気取って一礼する。横で留加が、無愛想に会釈した。
「驚いた。やっぱり、“支配領域”外でもフラフラしてみるものだね。こんなに素敵な出逢いが待ってるんだもの」
一人二人と人の波が去って行くなか、その少年はニッコリと笑って、未優に近づいてきた。
ハチミツ色の髪に、碧色の瞳をしている。さらさらの髪の間からのぞくピアスは、満月型の金色──『虎族』の“純血種”。
先程の称賛の声の持ち主だった。
「初めまして、こんにちは。
僕は薫。虎坂薫だよ」
ピアスを見せるように髪をかきあげ、人懐っこく微笑む。
「君の、名前は?」
「未優、だけど……?」
あっけにとられたまま名を告げる未優の片手を取って、薫はそこに自らの唇を押し当てた。ちらりと、碧色の瞳が未優の耳元に向けられる。
「よろしく、未優。……『山猫』の、お嬢様」
「……っ……って、あんたーっ! いきなり何すんのっ!?」