山猫は歌姫をめざす
【6】初めから、君のために
6.
(留加……?)
目を覚ました未優は、あたりを見回す。自分の部屋だった。
起き上がると、四肢はしっかりとシーツを踏みしめていた。ベッドの上だ。
(……留加が連れて来てくれたのかな……?)
未優は記憶をたぐり寄せ、“変身”の前に、留加にいろいろと言ってしまったことを思いだす。
(どうしよう……ものすごく感情的になっちゃった気がする……)
子供じみた非難や、我がままとしか受け取ってもらえないだろう、あれこれを。
と、その時、足音が未優の部屋へと近づいてくるのが解った。
人の耳では聴こえないそれも、獣の今なら、よく聴こえる。
足音は、未優の部屋の前で止まった。
「……未優、少し話がしたい。入ってもいいだろうか?」
(留加だっ……!)
未優は身を縮めた。さきほどの自分の態度を思い返すと、恥ずかしくてたまらなかった。
だが、
「未優?」
扉の向こう、さらに奥の方から聴こえてくる、くぐもった留加の声に、意を決して寝室を出た。
室内は、部屋の主が獣になった時のために、低い位置でピアスを感知すると、自動に扉が、わずかだが開くようにできている。
『いいよ、留加。入って』
未優は声にしたが、当然、口からもれたのはニャーニャーという鳴き声である。
しかし、留加に伝わるには十分だったらしく、室内に入ってきた。