山猫は歌姫をめざす
「──あんなに綺麗な声で歌ってたのに。すごいね、このギャップ」
押し当てられた唇に一瞬だけ絶句してから、未優は勢いよく片手を振り、それから着ていたパーカーのすそで、ごしごしとこすった。
そんな未優を無視して、薫は留加に同意を求める。
「……おれも、初めて彼女の歌声を聴いた時には耳を疑ったが、もう慣れた」
「ふーん、そっか。で、そっちは?」
「犬飼留加」
うながされてフルネームで答えたのは、薫の名乗りに倣ったからではない。
本来なら薫のほうは、名字など名乗らずとも良いはずだった。
なぜなら、『虎』の“純血種”でこの髪にこの瞳であれば、アムールトラだと判るほどの貴重な“血統”であるからだ。
対して留加は、“血統”数の多い『犬』の“混血種”だ。
初対面で名字を口にするのは、当然の習わし──名字は“血統”を指し示す──だった。
「ところで二人は、もう長いの?」
「いや、今日初めて合わせてみたところだ」
「……そっちじゃないんだけど。まぁいいや。じゃ、付き合ってはいないってコトかな?」
「は?」
“奏者”歴を訊かれていると思っていた留加は、目を見開いた。なんて質問をするのか。
信じがたい非常識さだが“純血種”とは、皆、このような者が多いのだろうか──?
押し当てられた唇に一瞬だけ絶句してから、未優は勢いよく片手を振り、それから着ていたパーカーのすそで、ごしごしとこすった。
そんな未優を無視して、薫は留加に同意を求める。
「……おれも、初めて彼女の歌声を聴いた時には耳を疑ったが、もう慣れた」
「ふーん、そっか。で、そっちは?」
「犬飼留加」
うながされてフルネームで答えたのは、薫の名乗りに倣ったからではない。
本来なら薫のほうは、名字など名乗らずとも良いはずだった。
なぜなら、『虎』の“純血種”でこの髪にこの瞳であれば、アムールトラだと判るほどの貴重な“血統”であるからだ。
対して留加は、“血統”数の多い『犬』の“混血種”だ。
初対面で名字を口にするのは、当然の習わし──名字は“血統”を指し示す──だった。
「ところで二人は、もう長いの?」
「いや、今日初めて合わせてみたところだ」
「……そっちじゃないんだけど。まぁいいや。じゃ、付き合ってはいないってコトかな?」
「は?」
“奏者”歴を訊かれていると思っていた留加は、目を見開いた。なんて質問をするのか。
信じがたい非常識さだが“純血種”とは、皆、このような者が多いのだろうか──?