山猫は歌姫をめざす
「君は……少し、一般常識やモラルを学んだ方が良いように思うが。
さっきの手の甲へのキスも、初対面の女性に対して失礼だろう」

留加は控え目に苦言を呈した。
一番格下の『犬』の自分が、上から数えた方が早い『虎』の薫に意見するには、それが礼儀だろうと思ったからだ。

「えー? あれは、あいさつのようなものでしょ?
っていうか、留加って若いのにカタイこと言うね。僕ら同じくらいの年齢に見えるけど、違うのかな。ね、いくつ?」
「十七だ」
「えっ?」

未優が声をあげる。その反応に、留加は軽く眉を寄せた。

「なぜ驚くんだ」
「だって、てっきり2コくらい上かと思ってたから……」
「──ほらぁ、あんまり変わんないじゃん、僕とー。なのに、なんか若さが足らないよー?
さっきの観客への対応も、ダメダメだったし。はい、スマイルスマイル!」

むにっと留加の両頬を薫がつまんでみせる。
留加の不快指数が確実に上がっているのを見てとり、未優は薫を押しやった。

「で、そういうあんたは何歳なワケ?」

半分ヤケになって()く未優に、薫は嬉しそうに声を弾ませた。

「十六だよ! ね、少しは僕に興味をもってくれた? なら、付き合ってみない?」
「だから……なんでそうなるのよ……」
「好きだから、未優のことが」
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