山猫は歌姫をめざす
【3】報われない恋と献身的な愛
3.
『人魚姫』の作者、アンデルセンは、自身も報われない恋を経験していたらしい。
彼は、『獅子族』の“混血種”、相手は『犬族』の“混血種”だったという。
今の時代も、もちろん、異なる“種族”の恋愛は、一般的にはタブーである。
だが、アンデルセンの生きていた時代と決定的に違うのは、世界のほとんどの国が婚姻は認めずとも、個人の恋愛に関しては、黙認しているところにある。
しかし、そういった時代背景があったからこそ、アンデルセンは『人魚姫』を、世に送り出したのかもしれない……。
(海の泡となって消える……)
悲しい結末だ。未優は、溜息をつく。
もし……と思う。
(もし、留加が、誰かと結婚することになったとしたら───)
未優は激しく頭を振った。駄目だ、考えられない。
仮定の話であったとしても、堪えられないのだ。それが現実となったりしたら。
(苦しくて、息もできない……)
人魚姫は、王子を殺して人魚の国へと帰っても良かったはずだ。
少なくとも、王子を殺せば泡にならずに人魚に戻れたのだから。
(でも、殺せなかった。愛していたから……?)
それだけ、だろうか? 愛していても、殺せないことはないはずだ。