山猫は歌姫をめざす
「───ありがとう、留加」

未優は微笑んだ。

想いがあふれてしまいそうで、未優はなんとかそれをこらえながら、自身の『人魚姫』の“解釈”について語り始めた。


†††††


“連鎖舞台”は、五十音順の演目で行われるのが常である。

つまり、前回は『灰かぶり』『ラプンツェル』の順で、今回は『少夜啼鳥(さよなきどり)』『人魚姫』という順番だ。

(綾さんの“舞台”観た翌日に、()るだなんて……)

どうせなら、逆が良かったと未優は思った。だが、嘆いても仕方がない。
そう自分に言い聞かせたとき、テーブルを挟んで真向かいに腰かけていた留加が言った。

「始まるな」

静かな声音に、客席と舞台が窺えるそこから、未優は下方に目を向けた。

真っ暗になった客席が徐々に静けさを増し、ゆっくりと緞帳(どんちょう)が上がっていく。

響子からすすめられ、“第三劇場”特別仕様の観覧席から、未優は綾の“舞台”の模様を観ることになったのだ。

小スペースのそこは、V.I.P席のようにディナーも楽しむことができるテーブル席だが、もちろん未優にそんな余裕はない。

開演前に、接待係である慧一が「ついでだ」と言って、アイスティーを二つ、持ってきてくれてはあったが。

『少夜啼鳥』は、ナイチンゲールの和名である。鳴き声の美しさから歌姫に例えられる鳥だ。

ある青年に恋した《彼女》は、青年が赤いバラを探しているのを知る。
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