山猫は歌姫をめざす
【4】甘い痛みをかかえ、舞台へ
4.
未優は溜息をついた。
何度も何度も書き加えては訂正し、そしてたどり着いた『人魚姫』の終幕の“解釈”が入った“演譜”を、握りしめる。
もう一度だけ、と、歌い語りだそうとしたその時、防音室に留加が入ってきた。
「……まだ起きているつもりか?」
言って、留加が未優に近づいてくる。未優の手にした“演譜”に目を留め、息をつく。
「今日は休んで、明日にしたらどうだ。“舞台”は夜の開演だ。リハの前に練習することも可能だろう。
……身体を休めることも、必要なはずだ」
「うん。そうだよね。解っているんだけど、でも……!」
丸テーブルの上で、未優は、ぎゅっと拳を握りしめた。
不安で、たまらなかった。
「実力も経験もハンパなあたしが『女王』を決める大会に出られるかもしれないだなんて……幸運すぎて、ずっと、実感がわかなくて。
だから、綾さんの胸を借りるつもりで、楽しんで『人魚姫』をやろうって、心のどこかで思ってた」
シェリーに「甘い」と指摘されたにも関わらず。
「でも、今日の綾さんの“舞台”を観ているうちに、そういう自分の考えが、本当に甘かったんだって、自覚したの」