山猫は歌姫をめざす
「……《あれ》に、その器用さを分けてやって欲しいぐらいだ。まぁ、カエルの子はカエル、ということだろう」

慧一は忍び笑いをもらした。

実直で潔癖な精神と、理想実現のためには手段を選ばない行動力は、確かに受け継がれているといえる。だが───。

「カエルにも、いろいろございましょう。今日は、それを是非ご覧いただきたいかと存じます。
……決して、貴重なお時間が、無駄になることはないかと」
「そうあって欲しいものだがね」
「───では、私は失礼いたします。ごゆっくり、ご鑑賞くださいませ」

一礼し、慧一は泰造の居るテーブルを離れて行った。

泰造は独りごちる。

「カエルにも、いろいろある、か……」


†††††


控え室で、未優は瞑想していた。
昨晩、不安な胸のうちをすべて留加に吐露していたせいか、不思議と気分は落ち着いていた。

(……留加に手、握られちゃったんだっけ)

思いだした事実に、未優の胸は高鳴る。

(もうっ、また違う意味でドキドキしてきちゃったよ……!)

せっかく落ち着いていたのに、と、なんだか留加が憎らしく思えてくる。

これでまた、
「なんの話だ」
などと言われたら、目も当てられない。

「───未優さん、お支度は整いましたか?」

ノックの音と共に、薫が声をかけてくる。
未優が返事をすると、ふふっと笑いながら中へと入ってきた。
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