山猫は歌姫をめざす
「──僕に用? それとも、彼女に?
まさか今時、“支配領域”争いってわけでは、ないよね?」

口調はやわらかいのに、声音は低く、放つ気配は殺気を帯びている。
……ふと、その気配がゆるんだと思ったら、慧一の声がして、彼の姿が未優の視界にも入ってきた。

「類は友を呼ぶってヤツか。未優、お前以外にも、トチ狂った趣味の“純血種”がいるとはな。
……まったく。おめでたい奴らだ」
「……君のお目付け役とかだったりする?
すごい殺気を感じたから、ちょっとヤバかったよ。
あと二秒、彼が姿を現わすのが遅かったら、僕、()っちゃってたと思うよ」

こっそり未優に告げる風を装って、薫ははっきりと慧一に対して言っていた。
何気ない口調に潜んだ明確な殺意に、未優は改めて身震いする。同じネコ科でも……やはり『虎』は格上だ。地位も、能力も。

「留加には会えたのか? “奏者”を、引き受けてくれることになったか?」
「じゃ、改めて、ディナーのお誘いをするね。僕はオマケがいても、全然気にしないから大丈夫。さ、行こう」
「……まだ練習し足りないというなら、幾つか練習場所を押さえてあるが、どうする」
「……君は、魚介類が好き? それとも、肉類かな? 僕は、どっちも好きだから君の希望の方へ連れて行くよ?」
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