山猫は歌姫をめざす
†††††

毎日、素っ気なくあしらっているのに、相変わらずポン引きは、懲りずに声をかけてくる。
留加は、ケバケバしい看板が幾つもかかったその道を、足早に通り過ぎた。

三度目の客引きを(かわ)した頃には、酒瓶と汚物が散らばった通路へと、たどり着く。

古びたスナックが両脇に何軒か立ち並び、木造の二階建てアパートが、それに続いた。その階段を、留加はゆっくりと昇っていく。

ふいに、自らの奏でた音色と共鳴した、透明な歌声が呼び覚まされ、留加の足が止まる。

(いまさら迷って、どうするんだ)

きつく目を閉じて、それから前を見据える。
自分は弾くだけだ、あの【幼い“歌姫”】のために。





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