山猫は歌姫をめざす
何の感情も浮かばない瞳で見られ、水でも浴びせられたかのように未優の心が冷えていく。

胸が、痛い。

「そ……そうかも知れないけど……でも、誤解されたままでいるのはあたしが嫌だし……それに」

息が詰まって、未優はそこで言葉を切った。
どんなに言い募っても、想いが変わらないのなら、伝えるだけ無駄なのだろうか?
……いや、そんなことはないだろう。
そう思い直して、未優はふたたび口を開く。

「それに、これから先、留加には“奏者”として付き合ってもらうんだし、少しでも正確に、あたしのことを知ってもらいたいって、思うの。
……でも……それって……必要ないこと、なのかな……?」

自信なげに問いかけると、留加は足を止め、未優に視線を合わせた。

「いや。……演奏は、心を映す。
君の言う通り、これから先二人でやっていくわけだから、お互いのことは理解しておいた方が良いだろうな。悪かった」
「ううん。解ってくれたなら、いい」

未優は留加に微笑んだ。そうか、と、留加は静かに答えを返して前に向き直り、歩を進める。

冷えたはずの心が、真っすぐに返された留加の言葉によって、また暖かさを取り戻すのを感じた。未優の顔に浮かんだ笑みが、さらに深まった。
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