山猫は歌姫をめざす
†††††


「“ピアス”を見せてください」

丁寧語であっても言い方がぞんざいで、未優はムッとしながら、頬にかかった髪を耳の後ろに流す。

関係者入口に立った警備員は、一瞬いぶかしげに未優を見たが、すぐに“ピアス”の照合をセンサーにかけた。
前方の四角い枠を指差す。

「じゃ、あれをくぐってください。問題なければ、中に入れますから」

ボディーチェックのそれをくぐり抜け、同様のチェックを受けている二人を待つ。

未優は、後方に建った本館を見上げた。

(えぇと、最初に舞台で“歌姫”としての実技試験で、それから口頭試問。最後に身体検査……って、なんか規定とかあるのかな?)

「あの、さ、慧一」

入口に向かいながら未優は小声で慧一に話しかける。


「なんだ」
「あの……“歌姫”って、胸が大きくないとダメとかってこと、あるのかな?
その、あんたのつかんだ情報で、そういうの、分かんない?」
「──Dカップ未満お断り」
「えっ!?」
「……なんて規定があってくれたら、お前に即、ムダだ諦めろと言えたんだがな。残念ながら、そんな規定はない」
「ちょっと……おどかさないでよ……」

未優は、Aカップしかない胸を撫で下ろした。
……十七でこれでは、この先もサイズが上がることはないだろうと悲しい気分になりながら。
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