山猫は歌姫をめざす
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ロビーに入ったところで背の高い青年──慧一の身長が178cmだから、優に180cmは越えるだろう──が、未優達に歩み寄ってきた。

「おはようございます。
13時から面接予定の猫山未優さんですね。
私は、狼口(おおかみぐち)清史朗(せいしろう)と申します。
こちらで“歌姫”の……当“劇場”では、ナイチンゲールと呼んでおりますが、世話係をしている者です。
本日は、どうぞよろしくお願いしますね」

穏やかな笑みを浮かべ、未優に軽く頭を下げる。
癖のある褐色の髪で“ピアス”は見えないが、『狼族』には違いないだろう。

横から慧一が未優の腕をひき、耳元で「ほれるなよ」とクギを刺す。未優は目を泳がせた。

(……ちょっとイイかも! と思ったのが、バレてる……)

「あ、はい! 猫山未優です。
こちらこそ、よろしくお願いします!」

勢いよく頭を下げると、清史朗はくすっと笑って、奥の方の通路を片手で示してみせた。

「では、あちらへ。ご案内致しますので。
付き添いの慧一様は、客席でお待ちいただくのがよろしいかと。こちらの正面の扉からお入りください。
それから、“奏者”の留加様は未優さんと同様、まずは控え室へご案内致します」

慧一に一礼して、清史朗が歩きだす。

ちらりと慧一を見やると、行ってこいと顎をしゃくられた。
未優はうなずいて、清史朗と留加のあとに続いた。
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