山猫は歌姫をめざす
客席はがらんとして、暗かった。
舞台上だけは、来たるべき未来の“歌姫”を待ち受けるかのように、スポットライトが煌々と幾つもついてはいたが。
そのライトのお陰で浮かびあがったシルエットがひとつ。
ゆるやかに波打った髪が胸の下まで覆い、腰に当てられた手首には、三連のブレスレットが飾られている。
「こんにちは。イリオモテのお坊っちゃん」
逆光で表情が見づらかったが、声は笑いを含んでいる。
慧一はふっと笑い返して礼をとった。
「──お初にお目にかかれて光栄です。『女王』時代のお話は、当家当主からも、いろいろと伺っております」
「はん。どうせロクでもない話ばかりだろ。
……まぁ、カタイあいさつは抜きにして、本題に入ろうじゃないか。世間知らずの、可愛いお嬢ちゃんのさ」
ばさっと乱暴にハチミツ色の髪を払う。見えるピアスは、満月型の銀色。『虎族』の“混血種”である証。
虎坂響子。
“第三劇場”の支配人である。
響子のあざけりを含んだ物言いに、慧一は内心面白くなかったが、表面にはださずに言を紡ぐ。
「……支配人におかれては、今回の当家の不始末、ご不快かとは存じますが何とぞ広い御心でご容赦いただきたく──」
舞台上だけは、来たるべき未来の“歌姫”を待ち受けるかのように、スポットライトが煌々と幾つもついてはいたが。
そのライトのお陰で浮かびあがったシルエットがひとつ。
ゆるやかに波打った髪が胸の下まで覆い、腰に当てられた手首には、三連のブレスレットが飾られている。
「こんにちは。イリオモテのお坊っちゃん」
逆光で表情が見づらかったが、声は笑いを含んでいる。
慧一はふっと笑い返して礼をとった。
「──お初にお目にかかれて光栄です。『女王』時代のお話は、当家当主からも、いろいろと伺っております」
「はん。どうせロクでもない話ばかりだろ。
……まぁ、カタイあいさつは抜きにして、本題に入ろうじゃないか。世間知らずの、可愛いお嬢ちゃんのさ」
ばさっと乱暴にハチミツ色の髪を払う。見えるピアスは、満月型の銀色。『虎族』の“混血種”である証。
虎坂響子。
“第三劇場”の支配人である。
響子のあざけりを含んだ物言いに、慧一は内心面白くなかったが、表面にはださずに言を紡ぐ。
「……支配人におかれては、今回の当家の不始末、ご不快かとは存じますが何とぞ広い御心でご容赦いただきたく──」