山猫は歌姫をめざす
†††††


組んだ腕の片方を上げ、人差し指だけ立てた状態で、響子はあごをつまんだ。
何かに興味が向いた時の、彼女の癖だった。

(へぇ……こりゃ、拾いモンかも知れないねぇ)

語りは未熟。踊りもなってない。
だが、“歌姫”としての素質を問う歌声は、聴く者の心を揺さ振る技量がある。
今の時点で、『声優』の“地位”を与えても良いくらいに。

(なんでまた“純血種”、しかも当主の娘なんてものに、生まれてきちまったんだか……)

「ねっ? 僕の言った通りでしょう?」

得意気に、隣の席に座った薫が、ささやいてくる。

「坊っちゃんは昔から【耳だけは】良かったからねぇ」
「だけって……相変わらず失礼な人だなぁ、響子さんは」
「あぁ、すみませんね。ついうっかり、本音がでちまって」
「……フォローになってないよ、それ」

あきらめの溜息をつく薫の頬を軽く叩いてなだめ、響子は舞台上の留加に目を向けた。

弾き始めの何小節かは、技巧に走った演奏でつまらないと思ったが。

(お嬢ちゃんの声に重なったとたん、艶っぽくなったね)

未優とは逆に、完成された技術と表現力。
「生活のため」だけに弾いてきたであろう過去が、響子には透けて見えた。
彼は今、初めて「音楽家」として弾いているのかもしれない。
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