山猫は歌姫をめざす
来客用の玄関を通り、入ってすぐの所に『支配人室』と書かれた表示板がかかった扉があった。
「留加様は、のちほど来客室へとお通し致しますので、少々こちらでお待ちいただけますか?」
「いや。おれはここで彼女を待つ。気遣いは無用に願いたい」
「……かしこまりました。
──マダム、未優さんをお連れしました」
「入んな」
扉をノックして清史朗が告げると、なかから中年の女性と思われるハスキーな声が響いてきた。
「失礼します」
清史朗に続いて室内に入ると、外光が多く差しこんでくる窓をバックに、ウェーブのかかったハチミツ色の髪をした女性が目に入った。
乱雑に置かれた書類と本とが山積みになった大机の向こうに腰かけ、手にしていた一枚の紙をひらひらと振る。
「シローは世話係に戻っていいよ。お嬢ちゃんは、そっちのソファーに座んな」
「失礼致します」
清史朗が頭を下げて出て行く。
未優は、指し示されたソファーに腰をかけた。すると、壁にかかった大判のパネルと向き合う形となり、思わず声をあげた。
「これ……!」
忘れもしない、未優が“歌姫”を目指すきっかけとなった『人魚姫』のワンシーンが撮られた写真だった。
「お嬢ちゃんの『人魚姫』の“解釈”は、面白かったよ」
「留加様は、のちほど来客室へとお通し致しますので、少々こちらでお待ちいただけますか?」
「いや。おれはここで彼女を待つ。気遣いは無用に願いたい」
「……かしこまりました。
──マダム、未優さんをお連れしました」
「入んな」
扉をノックして清史朗が告げると、なかから中年の女性と思われるハスキーな声が響いてきた。
「失礼します」
清史朗に続いて室内に入ると、外光が多く差しこんでくる窓をバックに、ウェーブのかかったハチミツ色の髪をした女性が目に入った。
乱雑に置かれた書類と本とが山積みになった大机の向こうに腰かけ、手にしていた一枚の紙をひらひらと振る。
「シローは世話係に戻っていいよ。お嬢ちゃんは、そっちのソファーに座んな」
「失礼致します」
清史朗が頭を下げて出て行く。
未優は、指し示されたソファーに腰をかけた。すると、壁にかかった大判のパネルと向き合う形となり、思わず声をあげた。
「これ……!」
忘れもしない、未優が“歌姫”を目指すきっかけとなった『人魚姫』のワンシーンが撮られた写真だった。
「お嬢ちゃんの『人魚姫』の“解釈”は、面白かったよ」