山猫は歌姫をめざす
まるで未優の心の内を見透かしたように、写真の“歌姫”である虎坂響子が真向かいのソファーに座りながら言った。
スリットの入ったロングスカートからのぞいた美脚が、高らかと組まれる。

「幸せな夢を見る、愚かで可愛い『人魚姫』だ。お嬢ちゃんそのものだね」

くくっと(のど)の奥で笑う。
未優の表情が、こわばった。

「あたしの“解釈”……間違ってましたか?」
「“歌姫”の“舞台”に正解なんてありゃしない。だからこそ、難しくてやりがいがあるんだろ」
「……はい」

神妙な面持ちでうなずく未優に、ふと、響子の口元がほころんだ。
素直な心根は、なんでも吸収する土台になるはず。それは、“歌姫”であるためには重要な要素だ。

「さて、と。アタシは遠回しな言い方は苦手でね。はっきり訊くよ。
──あんた、男と寝た経験は?」
「えっ……あの……え?」

いきなりの質問に、未優は面喰らって、頭が真っ白になった。

「……ま、ないだろうね。予想はしていたが、万が一ってコトもあるからね。一応、訊いてみただけさ。
そこで、改めてあんたに訊く。“歌姫”に、なりたいかい?」

未優はとまどった。質問に脈絡がなく、響子の真意が解らなかった。だが──。

「なりたい、です。“歌姫”に。そのために、あたしはここに来ました」
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