山猫は歌姫をめざす
ぎゅっと、ひざ上で拳を握りしめ、未優は泣きだしそうな自分に気づく。
響子がテーブルに置かれたタバコを取り上げ、火をつけた。未優を見ながら吸いこむと、彼女の顔に煙を吹きかける。
咳きこんで、未優は顔を背けた。
「……これで解ったかい? 自分がいかに愚かな夢をみてたかってことがさ。
なぁに、知っちまえば良い社会勉強だったってことで済む。知らないことを知る、それが大事なんだからさ」
「……なります」
「は?」
未優のか細い声に、響子はくわえタバコで眉を寄せた。未優が言った。
「あたし、“歌姫”になります!」
キッと響子を見据え、未優は今度はハッキリと宣言する。
響子は薄ら笑いを浮かべた。……やっぱり、そうきたか。
「──口ではなんとでも言えるって、言ったろう? お嬢ちゃん。
こっちだって、あんたがそう簡単に引き下がるなんて、思っちゃいないさ。
そこのドアの向こうに、アタシが呼んだ男がいる。まずはそいつと、寝てもらおうか。
あんたの覚悟が本物だって言うならね」
未優の座るソファーの後方を指す。
どくん、と、未優の心臓が強く脈打った。
(……男と、寝る……)
キスですら、したことのない自分が。
見ず知らずの男と、経験のないあれこれをするのかと思うと、訳もなく泣きわめきたくなった。
響子がテーブルに置かれたタバコを取り上げ、火をつけた。未優を見ながら吸いこむと、彼女の顔に煙を吹きかける。
咳きこんで、未優は顔を背けた。
「……これで解ったかい? 自分がいかに愚かな夢をみてたかってことがさ。
なぁに、知っちまえば良い社会勉強だったってことで済む。知らないことを知る、それが大事なんだからさ」
「……なります」
「は?」
未優のか細い声に、響子はくわえタバコで眉を寄せた。未優が言った。
「あたし、“歌姫”になります!」
キッと響子を見据え、未優は今度はハッキリと宣言する。
響子は薄ら笑いを浮かべた。……やっぱり、そうきたか。
「──口ではなんとでも言えるって、言ったろう? お嬢ちゃん。
こっちだって、あんたがそう簡単に引き下がるなんて、思っちゃいないさ。
そこのドアの向こうに、アタシが呼んだ男がいる。まずはそいつと、寝てもらおうか。
あんたの覚悟が本物だって言うならね」
未優の座るソファーの後方を指す。
どくん、と、未優の心臓が強く脈打った。
(……男と、寝る……)
キスですら、したことのない自分が。
見ず知らずの男と、経験のないあれこれをするのかと思うと、訳もなく泣きわめきたくなった。