山猫は歌姫をめざす
「じゃあ、あたしは、どうあっても“歌姫”にはなれないんですか……?」

娼婦になってでも、という自分の覚悟は無駄だったのか。未優は青ざめたが、響子はニヤリと笑った。

「まともなやり方じゃ、と言ったろ? “歌姫”に“地位”があるのは知ってるかい?」
「名称だけしか知りませんけど、一応……」

慧一からの情報を、頭の片隅から引っ張りだしてうなずく。

「そうかい。
“地位”は上から『女王』『王女』『声優』『偶像』『踊り子』となっててね。まぁ、それぞれの特色は省くけど、普通、新人“歌姫”は『踊り子』から始めて『女王』を目指すようになってる。
それで、だ」

本題に入ることを言外に匂わせ、響子は言葉を切った。

「ちなみに、“歌姫”でも、客をとらなくてもいい“地位”ってのがある。そのひとつが『女王』だ。

『女王』は公娼免除の他に様々な特権があるため、全国の“劇場”中で一人しか置けないことになっていて、不定期に『女王』を決める大会がある。

そして、公娼免除のもうひとつの“地位”が、『禁忌』だ。こいつは、他の“地位”とは別枠で、他の“地位”が人数制限なしなのに対して各“劇場”に一人しか置けないことになってる。

つまり──あんたが“歌姫”になるとしたら、この“地位”につくしかないのさ」
「『禁忌』……」

他の“地位”とは明らかに違う響き。
< 61 / 252 >

この作品をシェア

pagetop