山猫は歌姫をめざす
「律儀に、お前を送らなかったことを詫びに来た。お前と入れ違いに数分前に出て行った。まだ邸内にいるだろう。
奴の住所を考えて、五番ゲートから出ることを勧めたんだ」
「わかった!」
未優は身をひるがえした。しかし、慧一の部屋を出る前に、彼を振り返る。
「留加と契約してくれて、ありがとう!」
言って、未優は扉も閉めずに走り去って行く。
慧一は顔を覆うように、中指で眼鏡のブリッジを押し上げ、つぶやいた。
「……馬鹿が……」
†††††
慧一の部屋があるのは、敷地内の北側に位置した「冬の館」である。五番ゲートに行くには、館の中央バルコニーから降りた方が早い。
そう思って、未優はそこに至る客間を横切った。
山積みになったシーツを抱えた使用人にぶつかりそうになりながら、バルコニーに続く大窓を開ける。
「───留加っ!」
月光のもと、留加の後ろ姿が見てとれ、未優は叫んだ。と、同時に、バルコニーの手すりを飛び越える。
風が空を切り、未優の腰まである栗色の髪を巻き上げた。
未優の声に振り返った留加は、ぎょっとして、いま来た道を駆け戻る。
奴の住所を考えて、五番ゲートから出ることを勧めたんだ」
「わかった!」
未優は身をひるがえした。しかし、慧一の部屋を出る前に、彼を振り返る。
「留加と契約してくれて、ありがとう!」
言って、未優は扉も閉めずに走り去って行く。
慧一は顔を覆うように、中指で眼鏡のブリッジを押し上げ、つぶやいた。
「……馬鹿が……」
†††††
慧一の部屋があるのは、敷地内の北側に位置した「冬の館」である。五番ゲートに行くには、館の中央バルコニーから降りた方が早い。
そう思って、未優はそこに至る客間を横切った。
山積みになったシーツを抱えた使用人にぶつかりそうになりながら、バルコニーに続く大窓を開ける。
「───留加っ!」
月光のもと、留加の後ろ姿が見てとれ、未優は叫んだ。と、同時に、バルコニーの手すりを飛び越える。
風が空を切り、未優の腰まである栗色の髪を巻き上げた。
未優の声に振り返った留加は、ぎょっとして、いま来た道を駆け戻る。