山猫は歌姫をめざす
ゆっくりと顔を上げ、未優は留加に想いを伝える。今日の“舞台”で感じたことを。

「あなたしかいないって、思った。あたしが“歌姫”としてやっていくなら、あなた以外の“奏者”は考えられない。
だから、お願い」

留加は未優が語る言葉に、めまいを感じた。自分のなかにあった価値観が、根底から揺らぎそうなほどに。
だが、それでもまだ、かろうじて踏みとどまれる力を彼は持ち合わせていた───幸か、不幸か。

「……おれから、もう一度言ってもいいだろうか」

静かな留加の声音に、未優は、じっと彼を見返した。

「君のために弾こう。これから先、何度でも。……弾かせてくれ」

力強い留加の求めに応じて、未優は改めて彼に言う。片手を差し出して。

「よろしく、留加」

うなずいて、留加が言う。

「こちらこそ」

握り返された大きな手のひらに包まれて、そして未優は“歌姫”になることを改めて決意するのだった。



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