山猫は歌姫をめざす
ちろり、と、勝の瞳が動き、慧一を横目で見る。
未優に視線を戻すと、よっこらしょ、と言いながら、ソファーに腰を下ろした。手で示して、未優も座らせる。

「これまでは、それでも良かったかもしれん。
じゃが、嬢ちゃんは今日から“歌姫”になる。それは、男の慰み物として見られるということじゃ。
好む好まざるに関わらず、これから嬢ちゃんの側に寄ってくる男は、嬢ちゃんをそういう対象として見るじゃろう。

つまり、嬢ちゃんは、自分の身は自分で守るという気概をもたなきゃならんっちゅうことだ。
さっきのように、ぽやーんとしてたらいかんのだ。
ビシッと毅然(きぜん)とした態度で、そういう輩を()ねつけなければな。
でないと、嬢ちゃんだけじゃない、他のナイチンゲール達も【低く】見られてしまう」

じっと見据えられ、未優は息をのんだ。自分に、そういう自覚がなかったのは、確かだった。
だが、“歌姫”が娼婦の一面をもつ以上、客をとらない“地位”とはいえ、性の対象として見られていることは、意識すべきなのだろう。

「さて。ジジイのつまらん説教はこれくらいにして、未優嬢ちゃんの“ピアス”の施術をせにゃならんな。
医務室へ行こうかの」

どっこらしょ、と立ち上がった勝について行きかけた未優の腰の辺りを、勝がなで上げる。

「……っ……ちょっと!」
「ん?」
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