山猫は歌姫をめざす

【2】ふたりの王女と奏者の過去


       2.

一時間の施術後、未優は勝から手鏡を渡された。
今まであった金色の三日月型の“ピアス”に代わり、銀色の音符型の“ピアス”が耳たぶに付いている。
これで本当に、未優は“歌姫”としての道を歩きだすのだ。

「麻酔が切れるまで、二三時間はかかるが、そのあとは多少痛みもあるじゃろうし、今日はゆっくり部屋で休むと良いぞ。
涼子嬢も言っとったが、嬢ちゃんの正式な顔見せは、明日するそうじゃからな」
「はい。ありがとうございました」
「なに、礼には及ばんて。
それより、身体のこと、特に“変身”に関することは、早目に相談してくるんじゃぞ。“ピアス”を換えると、身体に変調をきたす者も多いからの」
「はい、気をつけます」

勝の忠告に、未優は自分の“変身日”を思い返す。先月は月初めだったから、いつも通りであれば、二週間後には訪れるはずだ。

そこへ、ノックの音が響いた。

「失礼します。……未優、終わったようね。これから、あなたの部屋に案内するわ。ついてきて」

涼子にうながされ、未優は医務室をあとにする。

「はい、未優。部屋で落ち着いてからでいいからこれに目を通しておいてね」

歩きながら涼子が、二枚のB5サイズの用紙を手渡してきた。

「契約書の内容を要約した『“歌姫”規約』と、他の従業員にも渡している『“第三劇場”規則』よ。
解りやすく書いたつもりだけどもし、解らないところがあったら遠慮なく訊いてちょうだいね?」
「はい、ありがとうございます」

契約時に慧一に任せきりだったのが気になっていたので、未優はホッとしながら微笑んだ。
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