山猫は歌姫をめざす
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「───猫山慧一と申します。
不慣れなことも多いかと思いますが、皆さんのセールスポイントをしっかり覚えて、接待係を務めさせていただきます。
どうぞ、ご指導のほど、よろしくお願いいたします」
にっこり笑って、頭を下げる。未優が見たら「誰?」と突っ込みそうな、さわやかな笑顔だった。
もちろん留加も、内心ぎょっとしてそんな慧一の姿を見ていた。
13名いるという“歌姫”のうち、トレーニングルームにいたのは『王女』ふたりを除く11名。年の頃は、下は十二三歳、上は20歳前後といった感じだ。
その中に、留加の知った顔はなかった。
(……『王女』なのか……)
心の準備はしてきたつもりだ。ここに【彼女】がいることを、慧一に教えられた日から。
「では、慧一様───失礼、慧一さん、留加様。
舞台の方へ、参りましょうか。丁度『王女』達が、リハーサルを行ってる頃ですから」
清史朗の言葉に、留加は自分を落ち着かせるように息をついた。
慧一は横目でそんな留加を見ていたが、何も言わなかった。
留加を“奏者”に未優が選ぶことを予感した、あの日。
慧一は、留加に関する情報を、あらゆる手段を使って手に入れた。
───未優のため、ひいては一族のために必要だったからだ。