山猫は歌姫をめざす
【3】『赤い靴』と『ラ・カンパネルラ』
3.
清史朗に『王女』二人を紹介されたのち、慧一と留加は、涼子によって従業員寮へと案内された。
「……なんであんたが、あたしの部屋と真向かいの部屋に入って行くわけ?」
「決まっている。俺がここの従業員になったからだ」
自室から出て来た未優は二人と鉢合わせし、露骨に顔をしかめたが、慧一の方は全く意に介さず、斜めに未優を見下ろした。
「…………聞いてないんですけど」
「当然だ。話した覚えはない。
……ああ、涼子さん、すみませんね。
鍵はいただきましたし、荷物はあとでほどくつもりなので、さっそく仕事場の方へ案内していただけますか?」
「……こちらは、よろしいの?」
「時間は無駄にしない主義ですので」
ちらりと未優を見やった涼子対し、に慧一はにっこりと笑ってみせた。言うが早いか歩きだす慧一を、涼子は軽く肩をすくめて追いかける。
未優は、うなった。
「ちょっと、何!? あいつ、意味わかんないっ。従業員って、どういうことよ? ウチの仕事はいいわけ!?」
「───接待係になるそうだ。おれも、さっき聞いたところだ。……きっと、君が心配だったんだろう」
留加の言葉に、未優は眉を寄せた。
「ああ、あたしが『猫山』の名前に傷をつけやしないかってことね。
フンだ。もう、そんな心配いらないのに。あたしはここで“歌姫”として生きていくんだから」