山猫は歌姫をめざす
「もう一度、最初から合わせてみようよ」

───だが、何度繰り返しても合わないことだけは、互いに解った。

「……合わないね」
「ああ。……今日はこのへんで止めておこう」
「え? このままやめると、なんか気持ち悪いんだけど」

練習の中断を未優は反対したが留加は首を横に振る。

「このまま続けても、同じことの繰り返しだ。それに、君の(のど)にも負担がかかる」
「そう、だけど……」

すでに留加は弓をゆるめ、ヴァイオリンをケースにしまっていた。しかし、未優は納得がいかなかった。

(“歌姫”になって初の音合わせでこんなのって……なんか、幸先悪いカンジでヤダよ……)

ヴァイオリンケースの留め具がパチンと閉まる。

「じゃあ、また明日」

あっさりと言って、留加は自分の部屋に戻ろうとする。そんな彼を、未優はあわてて引き止めた。

「あの、留加。良かったら、一緒に食事しない?」

†††††

むうっと眉を寄せ、薫は響子を上目遣いに見て、唇をとがらせた。

「なんで、未優いないの? せっかく今日は、未優が“歌姫”になったお祝いをしたくて、ディナーに誘おうと思って来たのに!」
「あぁ、そりゃ残念ですね。前もって約束しときゃ良かったのに」
「だって、初日はいろいろ忙しいと思って、電話もメールも我慢したんだよ。直接来て、様子うかがってからと思ってさ」

身を投げるように、薫はソファーに腰を下ろす。
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