転生令嬢は腹黒夫から逃げだしたい!
昼。学校の裏庭にあるベンチに座って購買で買ってきたパンを食べようとしていたセツナの視界にナツの姿が映った。
「あ……ナツ!」
思わず、反射的に声をかけてしまった。すぐに後悔したのだが。
いったいなんと言えばいいのだろう?
フードをはずしてほしい? なぜ?
もしも、彼の瞳が紫色だったら……?
「何、セツナ」
そっけない返事が戻ってきて、どうしようかと視線を彷徨わせる。
「用がないなら行くけど」
「ま、待って……ええと、そういえば私、あなたの顔ってあんまり見たことないなって思って」
「別に、セツナだけじゃなくてほとんどのやつが見たことないと思うけど」
近くまでやって来たナツの顔はフードの陰になっていて、やはりよく見えない。
「えーと……見てみたいな? って」
「なんで疑問形なわけ?」
一歳年下、というのもアヴェルスと同じだ。嫌な予感が押し寄せてくる。
ナツはふうとため息を吐くと、フードを外した。けれどその瞳の色は茶色で、ハーフのような顔立ちではあるが、少なくとも紫の瞳ではなかった。
「これで満足?」
「――え、ええ、あり……がと……」
セツナには分からなかった、この落胆のような感情がなんなのか。
なぜそんなふうに思うのか? アヴェルスに会いたかったのだろうか? ナツが彼であってほしいと少しでも思っていたのだろうか?
(ほんと……嫌な女……)
セツナが眉を顰めて悔しげに唇を噛んだのを見て、もう一度フードをかぶったナツが笑う。
「セツナがそんなに真剣に悩んでいるなんて、悪いものでも食べたんじゃないのか?」
「な、何よ、私だって悩むことくらいあるわ!」
失礼ね、と言うと、ナツはくすくすと笑った。
そのまま彼は手を振って去って行った、代わりに、シヅルがやって来る。
「セツナ、昼飯か?」
「え……ええ」
シヅルの屈託のない笑顔に、また罪悪感が顔をだす。自分はいったい何をどうしたいのだろうか?
最初は、ここへ来れば結婚からも、何もかもから逃げられて好都合だと思っていた。それなのに、今自分は迷っている。戸惑っている。
「セツナ?」
すぐ隣に座ったシヅルに顔を近づけられて、反射的に離れる。
――本当はどこにも行かないでほしい。
どうして今思いだすのか。アヴェルスのあの言葉を。
「どうか……したのか?」
心配そうなシヅルの声に、セツナは慌てて笑みを繕った。
「な、なななんでもないの! ちょっと……ちょっとだけ調子が悪いの」
「そうなのか? あんまり無理をするなよ。その……せっかく恋人同士になって初めての花火大会なんだし、俺は楽しみでさ」
困ったように笑うシヅルに、なんとか返事をする。
「……ええ」
うまく笑えただろうか?
自分は大きく道を誤ってしまったかのような気がしていた、だが、ここへ来ることがなければそれを知ることもなく、不思議の湖に夢を見続けたのだろう。
だから、これは間違いではない。だが、アヴェルスの真意を確かめることも今はできない。
(私、いろいろと抜けてるのね)
とはいえ、アヴェルスの口から何を告げられたとしても、それを自分が手放しに信じることができるとも思えないのだ。
もっと信じることができれば、とも思うが、アヴェルスは嘘に関してもきっと完璧だ。
せめて自分が、彼の嘘に永遠に騙されていられるような人間だったらよかったのかもしれない。そうしたら、きっと。
(こんなに、苦しくないもの)
「あ……ナツ!」
思わず、反射的に声をかけてしまった。すぐに後悔したのだが。
いったいなんと言えばいいのだろう?
フードをはずしてほしい? なぜ?
もしも、彼の瞳が紫色だったら……?
「何、セツナ」
そっけない返事が戻ってきて、どうしようかと視線を彷徨わせる。
「用がないなら行くけど」
「ま、待って……ええと、そういえば私、あなたの顔ってあんまり見たことないなって思って」
「別に、セツナだけじゃなくてほとんどのやつが見たことないと思うけど」
近くまでやって来たナツの顔はフードの陰になっていて、やはりよく見えない。
「えーと……見てみたいな? って」
「なんで疑問形なわけ?」
一歳年下、というのもアヴェルスと同じだ。嫌な予感が押し寄せてくる。
ナツはふうとため息を吐くと、フードを外した。けれどその瞳の色は茶色で、ハーフのような顔立ちではあるが、少なくとも紫の瞳ではなかった。
「これで満足?」
「――え、ええ、あり……がと……」
セツナには分からなかった、この落胆のような感情がなんなのか。
なぜそんなふうに思うのか? アヴェルスに会いたかったのだろうか? ナツが彼であってほしいと少しでも思っていたのだろうか?
(ほんと……嫌な女……)
セツナが眉を顰めて悔しげに唇を噛んだのを見て、もう一度フードをかぶったナツが笑う。
「セツナがそんなに真剣に悩んでいるなんて、悪いものでも食べたんじゃないのか?」
「な、何よ、私だって悩むことくらいあるわ!」
失礼ね、と言うと、ナツはくすくすと笑った。
そのまま彼は手を振って去って行った、代わりに、シヅルがやって来る。
「セツナ、昼飯か?」
「え……ええ」
シヅルの屈託のない笑顔に、また罪悪感が顔をだす。自分はいったい何をどうしたいのだろうか?
最初は、ここへ来れば結婚からも、何もかもから逃げられて好都合だと思っていた。それなのに、今自分は迷っている。戸惑っている。
「セツナ?」
すぐ隣に座ったシヅルに顔を近づけられて、反射的に離れる。
――本当はどこにも行かないでほしい。
どうして今思いだすのか。アヴェルスのあの言葉を。
「どうか……したのか?」
心配そうなシヅルの声に、セツナは慌てて笑みを繕った。
「な、なななんでもないの! ちょっと……ちょっとだけ調子が悪いの」
「そうなのか? あんまり無理をするなよ。その……せっかく恋人同士になって初めての花火大会なんだし、俺は楽しみでさ」
困ったように笑うシヅルに、なんとか返事をする。
「……ええ」
うまく笑えただろうか?
自分は大きく道を誤ってしまったかのような気がしていた、だが、ここへ来ることがなければそれを知ることもなく、不思議の湖に夢を見続けたのだろう。
だから、これは間違いではない。だが、アヴェルスの真意を確かめることも今はできない。
(私、いろいろと抜けてるのね)
とはいえ、アヴェルスの口から何を告げられたとしても、それを自分が手放しに信じることができるとも思えないのだ。
もっと信じることができれば、とも思うが、アヴェルスは嘘に関してもきっと完璧だ。
せめて自分が、彼の嘘に永遠に騙されていられるような人間だったらよかったのかもしれない。そうしたら、きっと。
(こんなに、苦しくないもの)