転生令嬢は腹黒夫から逃げだしたい!
02
その頃、ユーヴェリーは嵐のように去って行ったエルトリーゼに困惑していた。
「ど、どうなさったのかしら……?」
ユーヴェリーは不思議そうに扉を見つめていた。
エルトリーゼは公爵令嬢だが、傲慢でもなくむしろユーヴェリーにも優しくしてくれていたのだが、今日はなんだか様子が変だった。
立場を思えば無礼なのだろうが、エルトリーゼを妹のように思っているユーヴェリーにとっては心配になる行動だ。
「調子が悪いと言っていたし、気にすることはないんじゃないかな?」
アヴェルスが言うと、ユーヴェリーは納得こそしていないものの頷いた。
エルトリーゼにも知られたくないことや事情というものはあるだろう。
「そうね、詮索はよくないわよね」
「そうだよ、彼女にも知られたくないことくらいあるだろう。ところで、今日はどうしたの? ユーヴェリー」
優しい彼の言葉に、ユーヴェリーは花が咲くように微笑んだ。
「さっきも言ったけれど、あなたがやっと婚約をしたと聞いて、お祝いに来たのよ。もう、陛下もずうっと心配なさっていたのだからね。エルトリーゼ様を大切にしてあげてね?」
「……ああ、もちろん」
アヴェルスは内心で舌打ちをした、あんな子供っぽくて性格の悪そうな女の何を大切にしろと言うのか。
「そうそう、わたくしも婚約することになったの」
「――え」
「嫁き遅れだってさんざん言われていたから、やっと肩の荷がおりたわ!」
嬉しそうなユーヴェリーに、反応が遅れたアヴェルス。
疑問に思った彼女が先に口を開いた。
「アヴェルス? どうしたの?」
「――……あぁ、いや、ごめん、なんでもないよ。おめでとうユーヴェリー……幸せに」
彼がそう言うと、ユーヴェリーは百合の花のようにたおやかに微笑んで言う。
「ええ、あなたとエルトリーゼ様もよい夫婦になれるように祈っているわ」
◇◇◇
ユーヴェリーが帰ったあと、アヴェルスは私室のソファにぐったりと座りこんだ。
「最悪」
本当に、この一言に尽きる。
何度も父にはユーヴェリーを選ばせてほしいと懇願したが、なぜか頑なに断られた。
そして、相手は両親が決めると言われ……連れて来られたのがあのエルトリーゼだったのだ。
昔から、妙に胡散臭いところのある女だと思っていた。
幼い頃は年齢にそぐわない振る舞いというか、今で言うのなら奇妙に男の扱いに慣れていそうなところとか。愛人が居ると言われても驚かない。
一方ユーヴェリーは優しく愛に溢れた女性だ。エルトリーゼと違ってスレたところもない。
それなのに……。
(そういえば、あいつ、どこへ向かったんだろう)
アヴェルスは空中に魔法で半透明のページを開いた。
さっき、エルトリーゼはなにかよろしくないことを考えているように感じた。何か悪巧みをしている可能性がある。
「王立図書館……?」
彼女に贈られた指輪には、おそらく本人も気づいているだろうが居場所を追跡する機能がある。
ただ、エルトリーゼはわざわざアヴェルスが自分の居場所など気にするとは思っていないだろう。実際には、こうして確認されているわけだが。
(どうしてわざわざあんな場所に……? 本が好きだとか、そういう情報は特になかったはずだ。それに、本が好きなら自宅に山ほどあるだろうし……)
王立図書館にはどちらかというと小難しい本が並んでいる。
少なくとも女性が好みそうな小説などの類は置かれていない。あるのは魔術書などだ。
「怪しい……」
アヴェルスは紫色の瞳を眇めて席を立った。
(あの女、何か隠し事をしているのは間違いないんだ。胡散臭いし、少し様子を見てくるか)
周囲の男どもはあの胡散臭い女が可愛いとか愛らしいとか言うが、アヴェルスにはとてもそうは見えない。
あの振る舞いかたといい、何かあるのは間違いない。
「ど、どうなさったのかしら……?」
ユーヴェリーは不思議そうに扉を見つめていた。
エルトリーゼは公爵令嬢だが、傲慢でもなくむしろユーヴェリーにも優しくしてくれていたのだが、今日はなんだか様子が変だった。
立場を思えば無礼なのだろうが、エルトリーゼを妹のように思っているユーヴェリーにとっては心配になる行動だ。
「調子が悪いと言っていたし、気にすることはないんじゃないかな?」
アヴェルスが言うと、ユーヴェリーは納得こそしていないものの頷いた。
エルトリーゼにも知られたくないことや事情というものはあるだろう。
「そうね、詮索はよくないわよね」
「そうだよ、彼女にも知られたくないことくらいあるだろう。ところで、今日はどうしたの? ユーヴェリー」
優しい彼の言葉に、ユーヴェリーは花が咲くように微笑んだ。
「さっきも言ったけれど、あなたがやっと婚約をしたと聞いて、お祝いに来たのよ。もう、陛下もずうっと心配なさっていたのだからね。エルトリーゼ様を大切にしてあげてね?」
「……ああ、もちろん」
アヴェルスは内心で舌打ちをした、あんな子供っぽくて性格の悪そうな女の何を大切にしろと言うのか。
「そうそう、わたくしも婚約することになったの」
「――え」
「嫁き遅れだってさんざん言われていたから、やっと肩の荷がおりたわ!」
嬉しそうなユーヴェリーに、反応が遅れたアヴェルス。
疑問に思った彼女が先に口を開いた。
「アヴェルス? どうしたの?」
「――……あぁ、いや、ごめん、なんでもないよ。おめでとうユーヴェリー……幸せに」
彼がそう言うと、ユーヴェリーは百合の花のようにたおやかに微笑んで言う。
「ええ、あなたとエルトリーゼ様もよい夫婦になれるように祈っているわ」
◇◇◇
ユーヴェリーが帰ったあと、アヴェルスは私室のソファにぐったりと座りこんだ。
「最悪」
本当に、この一言に尽きる。
何度も父にはユーヴェリーを選ばせてほしいと懇願したが、なぜか頑なに断られた。
そして、相手は両親が決めると言われ……連れて来られたのがあのエルトリーゼだったのだ。
昔から、妙に胡散臭いところのある女だと思っていた。
幼い頃は年齢にそぐわない振る舞いというか、今で言うのなら奇妙に男の扱いに慣れていそうなところとか。愛人が居ると言われても驚かない。
一方ユーヴェリーは優しく愛に溢れた女性だ。エルトリーゼと違ってスレたところもない。
それなのに……。
(そういえば、あいつ、どこへ向かったんだろう)
アヴェルスは空中に魔法で半透明のページを開いた。
さっき、エルトリーゼはなにかよろしくないことを考えているように感じた。何か悪巧みをしている可能性がある。
「王立図書館……?」
彼女に贈られた指輪には、おそらく本人も気づいているだろうが居場所を追跡する機能がある。
ただ、エルトリーゼはわざわざアヴェルスが自分の居場所など気にするとは思っていないだろう。実際には、こうして確認されているわけだが。
(どうしてわざわざあんな場所に……? 本が好きだとか、そういう情報は特になかったはずだ。それに、本が好きなら自宅に山ほどあるだろうし……)
王立図書館にはどちらかというと小難しい本が並んでいる。
少なくとも女性が好みそうな小説などの類は置かれていない。あるのは魔術書などだ。
「怪しい……」
アヴェルスは紫色の瞳を眇めて席を立った。
(あの女、何か隠し事をしているのは間違いないんだ。胡散臭いし、少し様子を見てくるか)
周囲の男どもはあの胡散臭い女が可愛いとか愛らしいとか言うが、アヴェルスにはとてもそうは見えない。
あの振る舞いかたといい、何かあるのは間違いない。