神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
「それで、ええと……。今日は、どのようなご用件でいらしたのでしょうか?」
これ以上の美辞麗句を並び立てられる前に、本題に入ってもらおうと先をうながす。
すっ……と、虎次郎の顔つきが、神妙なものへと変わった。咲耶に対し、ひれ伏すようにして頭を下げてくる。
「まずは、我が主が行った先の追捕の令に際してのご無礼を、心よりお詫び申し上げます。
早まった行いであったこと、主共々、深く恥じ入っておりますので、寛容なお心で赦していただければ有り難く存じます」
伏したまま届く声音はくぐもっていて、やわらかな口調ながらも反省の意は伝わってきた。
咲耶としても、謝意を示す相手に向かい、とやかく言うつもりはなかった。顔を上げて欲しいと、声をかける。
「……やはり、白の姫君は常人とは違われますね。
実は、主の命とはいえ、こちらに伺うのもはばかられる身なれば、お目通りも叶わずに追い返されることも覚悟して参ったのですが……。
なかなかどうして、お見かけ通り優しく清らかな姫君であらせられる」
ホッとしたように表情を和らげたのもつかの間、虎次郎の口からは咲耶を持ち上げる言葉が、よどみなく出てくる。
(ナニこの人、どこの太鼓持ち芸人!?)
咲耶は今度こそ、叫びだしたいくらいのこそばゆさを感じた。
が、咲耶のふざけた内心に反し、虎次郎の容姿は、つり目ぎみのすっきりとした顔立ちの美丈夫だ。
「ああああのっ、まずは、ということは、他にも何か、あるんですよね……?」
生まれてこの方、美形の男に正面きって褒められた経験がない咲耶は、動揺のあまり声がうわずってしまった。
世辞と解っているだけに、自ら茶化して平静を装うつもりが、失敗に終わったのだ。
そんな咲耶の心中をよそに、虎次郎は咲耶に対し、とんでもない要求を突き付けてきた。
「率直に申し上げれば──これから私と共に、“大神社”に出向き、主に会っていただきたいのです。
……できるだけ、内密に」
これ以上の美辞麗句を並び立てられる前に、本題に入ってもらおうと先をうながす。
すっ……と、虎次郎の顔つきが、神妙なものへと変わった。咲耶に対し、ひれ伏すようにして頭を下げてくる。
「まずは、我が主が行った先の追捕の令に際してのご無礼を、心よりお詫び申し上げます。
早まった行いであったこと、主共々、深く恥じ入っておりますので、寛容なお心で赦していただければ有り難く存じます」
伏したまま届く声音はくぐもっていて、やわらかな口調ながらも反省の意は伝わってきた。
咲耶としても、謝意を示す相手に向かい、とやかく言うつもりはなかった。顔を上げて欲しいと、声をかける。
「……やはり、白の姫君は常人とは違われますね。
実は、主の命とはいえ、こちらに伺うのもはばかられる身なれば、お目通りも叶わずに追い返されることも覚悟して参ったのですが……。
なかなかどうして、お見かけ通り優しく清らかな姫君であらせられる」
ホッとしたように表情を和らげたのもつかの間、虎次郎の口からは咲耶を持ち上げる言葉が、よどみなく出てくる。
(ナニこの人、どこの太鼓持ち芸人!?)
咲耶は今度こそ、叫びだしたいくらいのこそばゆさを感じた。
が、咲耶のふざけた内心に反し、虎次郎の容姿は、つり目ぎみのすっきりとした顔立ちの美丈夫だ。
「ああああのっ、まずは、ということは、他にも何か、あるんですよね……?」
生まれてこの方、美形の男に正面きって褒められた経験がない咲耶は、動揺のあまり声がうわずってしまった。
世辞と解っているだけに、自ら茶化して平静を装うつもりが、失敗に終わったのだ。
そんな咲耶の心中をよそに、虎次郎は咲耶に対し、とんでもない要求を突き付けてきた。
「率直に申し上げれば──これから私と共に、“大神社”に出向き、主に会っていただきたいのです。
……できるだけ、内密に」