神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
「……利用する価値はできたってコトか」
「け、犬朗さんっ、そんな言い方は……!」

耳の後ろをうっとうしそうに()きながら犬朗が言ったのに対し、たぬ吉が声をあげた。
身も(ふた)もない物言いを責めただけで、たぬ吉も同様に思っているらしい。

「問題は、どういう利用の仕方(・・・・・・・・・)を考えているかってコトなんだよな」

独りごちたのち、犬朗は小さく息をつく。

「……しゃーねぇな。俺が“隠形”で付いて、タンタンが“影”に入る。テンテンは、念のため犬貴にこの件を伝えてくれ。
──ってな感じで、どうよ、咲耶サマ?」

実質、“眷属”たちのまとめ役のようになってしまっている犬朗が、最終判断を仰いでくる。

咲耶は気が進まないながらも、遅かれ早かれ尊臣と対面することになる覚悟はしていたので、うなずいてみせた。

「うん、そうしよう。じゃ、みんな、よろしくね」

咲耶の了解を得て、うなずき返す“眷属”たちを見ながら、咲耶の胸のうちにはひとつの()り所もあった。

(まぁ、転々の言う通り、殺されるとかはあり得ないと思うけど。
ヤバそうだったらハ──和彰を呼べば(・・・)いいんだもんね)

──『想う』だけで気持ちが『届く』存在になった相手。

以前、そのように百合子が言っていたことと合わせ、和彰本人からも、

「お前の身に何かあれば必ず駆けつける。危ういと感じた時は、すぐに私を呼べ(・・)

とも言われている。幸い、そんな機会は今までなかったので、試したことはないが。

(うーん、試してみたい気もするけど、そんな事態にならないのが一番だしね)

複雑な思いを抱えながら、咲耶は正装である白地に金ししゅうの水干(すいかん)と、黒地に金ししゅうのほどこされた筒袴に着替えた。





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