神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
《四》変わった御人だってコトさ。
何度か虎次郎の制止する声がしたが、咲耶は「すみません」と「ごめんなさい」を繰り返し、彼を置いて子供の父親のいる山中へと入った。
どうやら、足を滑らせて山道を転がり落ちたまま、身動きがとれなくなったらしい。
「──小僧のオヤジは、村の連中に嫌われてんのか?」
救いを求められ、とっさに咲耶は乞われるまま来てしまった。
しかし、犬朗の問いかけに、人同士の助け合いでどうにかなることだったのでは? と、今更ながらに気づく。
……だからといって衛士のように、子供の頼みをむげに断ることはできなかったが。
「き、嫌われてなんか……けど、ここはキンソクチだから……。ほんとは入っちゃいけないって、父ちゃんが、言ってて……」
追捕の者から逃れようとした時よりも多少の失速感はあったが、子を背負う犬朗も咲耶のなかのたぬ吉も、常人では体感することのない速度で駆けていた。
そのため、子供は舌をもつれさせながら、言葉を発していた。
「……ああ。村の連中にバレたら、村八分にされる可能性が高いんだな?」
納得したように犬朗がうなずく。
子供が口にした『キンソクチ』とは、『禁足地』のことだろう。
『神の領域』であるとされる一帯は、只人が入ることは禁止され、また、村社会においては暗黙の了解のもと、立ち入った者を拒絶する可能性が高いと聞く。
咲耶も事態をのみこんだ。
(あの時も、犬貴が言ってたっけ……)
この辺り一帯は神域とされ、只人は立ち入れないよう“結界”を張っていると。そして、言葉をにごした犬貴。
おそらく、この子供の父親のように『禁足地』に踏み入ることをなんとも思わない者が増えたと、続けたかったのだろう。
「あっ、あそこっ……!」
犬朗の背に身を預けたまま子供──孝太というらしい──が、腕を伸ばし前方を指差す。
木の根元に、薪とキノコらしき物が入った背負い籠があった。
辺りを見渡せば、杉の木が乱立しており、よくよく見ると、ゆるやかに下った傾斜が左方向にある。
土はぬかるんでいて、なるほど、足を滑らせたのも無理はない。
どうやら、足を滑らせて山道を転がり落ちたまま、身動きがとれなくなったらしい。
「──小僧のオヤジは、村の連中に嫌われてんのか?」
救いを求められ、とっさに咲耶は乞われるまま来てしまった。
しかし、犬朗の問いかけに、人同士の助け合いでどうにかなることだったのでは? と、今更ながらに気づく。
……だからといって衛士のように、子供の頼みをむげに断ることはできなかったが。
「き、嫌われてなんか……けど、ここはキンソクチだから……。ほんとは入っちゃいけないって、父ちゃんが、言ってて……」
追捕の者から逃れようとした時よりも多少の失速感はあったが、子を背負う犬朗も咲耶のなかのたぬ吉も、常人では体感することのない速度で駆けていた。
そのため、子供は舌をもつれさせながら、言葉を発していた。
「……ああ。村の連中にバレたら、村八分にされる可能性が高いんだな?」
納得したように犬朗がうなずく。
子供が口にした『キンソクチ』とは、『禁足地』のことだろう。
『神の領域』であるとされる一帯は、只人が入ることは禁止され、また、村社会においては暗黙の了解のもと、立ち入った者を拒絶する可能性が高いと聞く。
咲耶も事態をのみこんだ。
(あの時も、犬貴が言ってたっけ……)
この辺り一帯は神域とされ、只人は立ち入れないよう“結界”を張っていると。そして、言葉をにごした犬貴。
おそらく、この子供の父親のように『禁足地』に踏み入ることをなんとも思わない者が増えたと、続けたかったのだろう。
「あっ、あそこっ……!」
犬朗の背に身を預けたまま子供──孝太というらしい──が、腕を伸ばし前方を指差す。
木の根元に、薪とキノコらしき物が入った背負い籠があった。
辺りを見渡せば、杉の木が乱立しており、よくよく見ると、ゆるやかに下った傾斜が左方向にある。
土はぬかるんでいて、なるほど、足を滑らせたのも無理はない。