神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
しばらく考えこんだのち、思いついたように犬朗は口を開いた。

「そう、アレだ。俺ら“眷属”が、地中に根をはって生きてる『草木』だとして旦那からもらう生命力が『特別な水』だとする。
俺らは旦那の『水』がなくても、雨水や地中の栄養、太陽の光でもって生きていられる存在だ。
けどよ、咲耶サマは、切り花と同じなんだ」
「切り花?」
「そう。いったん摘まれた(・・・・)存在だ。旦那が与える生命力っていう『特別な水』を、肉体っていう『花器』に注がれて生きているワケだな。
そういう状態だから、切り花を長く()たせる『特別な水』が、不慮の出来事によって『花器』からこぼれたり、枯渇したりすると(しお)れちまうってコトだな」
「……私、いま、萎れてるの?」

沈んだ声になる咲耶に対し、犬朗が勢いよく噴きだした。

「たとえだって言っただろ? 別に、いますぐどうこうってワケじゃねぇさ。そゆとこ咲耶サマは、可愛いよなぁ……」

くくっと笑ったあと、犬朗が真顔になった。前に向き直り、遠くを見るようにして、話の先を続ける。

「咲耶サマも気づいているだろうけど、俺らの“影”っていう能力は、その対象である咲耶サマの肉体も精神も『(むしば)む』ものなんだ。
もちろん、わざとそうしてるワケじゃねぇけど、仕組みっつうか状態は、そういうコトなんだよ。
……俺たちが疎まれるゆえんさ」

自嘲(じちょう)ぎみに話す犬朗に思わず咲耶は、つかんだ犬朗の腕に力をこめた。

「それはちょっと違うわよ?
だって、私も“影”に入ってもらうことによって、早く目的地に着けたり、自分に無い能力が備わったりしているわけだから。
いわば、ギブアンドテイク……持ちつ持たれつな間柄で、もっと言っちゃうと、あなた達“眷属”の力を利用してるのは、私のほうなんだから。
必要なら私のなかの……その、生命力っていうの? 喰らって(・・・・)もらわなきゃ。でしょ?」

咲耶は犬朗の話す内容を聞いて、思ったことを言った。
しかし犬朗は、思いもよらない言葉を聞いたとでもいうように、咲耶をまじまじと見返してくる。
直後、失笑をもらした。

「……なるほど。黒いのが言ってたのは、これ(・・)か」
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