神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
装いは男性のものだが、体つきと声は女性だとはっきり分かる。

とまどいを隠せない咲耶に、涼しげな美貌(びぼう)の持ち主が、訳知り顔で微笑んでみせた。
是とも否ともとれる表情のまま、咲耶に座るようにうながし自らも腰かける。わずかな沈黙ののち、女は口を開いた。

「白の姫は、この国の内情をどの程度ご存じですか?」

やわらかな声質ながらも、はきはきとした口調の問いかけに、咲耶は少し緊張して応えた。

「内情……ですか。あの、私はこちら(・・・)に来てまだ日が浅いもので……」

言いながら咲耶は、それが言い訳にしかならないことに気づく。

尊臣と向き合う、そう決めたのは自分だ。
だが──向き合うだけの『材料』を持ち合わせていない己の手落ちを、責められた心地がした。

「……意地悪な問いでしたね」

揶揄(やゆ)というよりは、咲耶の心情を思いやるような抑揚のある物言いに、少しだけ咲耶の緊張がほぐれた。

「いえ、勉強不足なのは、事実です。
私は、この世界のことについて、知らないことのほうが多くて……」

元いた世界での一般常識であるなら、年相応にあったつもりだ。
けれども、この世界──“陽ノ元”においての咲耶の知識は、褒められたものではなかった。

「では、僭越(せんえつ)ながら、わたくしの口から少し、お話ししますね」

軽く目礼をし、続ける。張りあげるわけではなく、よく通る声。

「この“下総ノ国”は“陽ノ元”において、上から数えたほうが早い国力をもつ国。
気候は作物を育てるのに適した夏は程よく暑く、また冬は適度に寒い。
農民からの()も、商人からの(ぜい)も、他国に比べれば申し分なく徴収できる。
官吏もまた、規律を重んじ、公を支える……」

何かの書物を(そらん)ずるように、よどみなく流れる言葉。
咲耶は思わず溜息をついた。

「良い国なんですね……」
「そう、思われますか?」

ちらりと、女の目が咲耶を見返す。そこへ、男の声が割って入った。

「だが、様々なものを簡単に手に入れられる民は、さらに貪欲(どんよく)になる。
食い物、着る物、金……。満たされるにつれ、次から次へとな。
しまいには、天命が尽きてもなお、生き長らえることまで望むようになる」
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