神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
見下す視線はそのままに、虎次郎は乱暴に腰を下ろす。あぐらをかいたひざ上に頬づえをついた。
「まずは“神現しの宴”の件。
あれを主催したのは俺だが、お前の乱入を不問に付すとしたのはユキの裁量だ。
……もとより、こいつは“神獣”を見世物にするのには反対だったからな。
しかし、お前の無粋な行いで、あてにしていた商人からの『見物料』はふいになった。あとで『代償』は払ってもらうぞ」
意味ありげに咲耶を見やったのち、虎次郎は話を続けた。
「結果、あの宴の一件で、お前が“仮の花嫁”であることが露呈したわけだ。
生意気にも俺の顔に泥を塗っておきながら、“神力”もまともに扱えないときた。
だから俺は言ったんだ、「“花嫁”の首をすげ替えろ」とな」
咲耶を見ながら片方の親指を立て、自らの首のあたりで横に引くしぐさをする。
不遜な虎次郎の態度に、咲耶も負けじと言い返す。
「……そうらしいですね。
和彰の『儀式』を三度で打ち切ろうとしたり、“花嫁”の命をムダに奪おうとしたり……。
ずい分と堪え性のない方だとうかがってましたけど、全部事実ですか」
「……赤虎か。あいつは出不精で潔癖なうえに、頭でっかちだからな。まったく……使い途がない」
咲耶の嫌味を受け流し、虎次郎は息をつきながら頭を横に振る。
話がかみ合わないように思えるのは、咲耶の気のせいだろうか?
「そして、そんな赤虎の情報によって、お前は脱獄したわけだ。あれは、俺にとっては好都合だったがな」
「え?」
「ユキは、俺の考えを諌めていたんだ。
お前のいう通り、気が短いのが俺の悪いところだなんだと諭し、お前を牢から解き放つつもりでな。
そんななか、お前が脱獄したとの報せが届いた。これにはユキも、追捕の令を出さないわけにはいかなくなった。
なぜなら、脱獄した者を野に放ったままでは、“国司”を始め、この国の官吏の力不足を、内外に示すことになるからだ。
俺たちが追捕の令を下さずにいれば、下の者からの突き上げがくるのは明白だった。
……ユキは、何より秩序を重んじる。秩序を乱した者を捕らえるのは、やぶさかではないからな。
「まずは“神現しの宴”の件。
あれを主催したのは俺だが、お前の乱入を不問に付すとしたのはユキの裁量だ。
……もとより、こいつは“神獣”を見世物にするのには反対だったからな。
しかし、お前の無粋な行いで、あてにしていた商人からの『見物料』はふいになった。あとで『代償』は払ってもらうぞ」
意味ありげに咲耶を見やったのち、虎次郎は話を続けた。
「結果、あの宴の一件で、お前が“仮の花嫁”であることが露呈したわけだ。
生意気にも俺の顔に泥を塗っておきながら、“神力”もまともに扱えないときた。
だから俺は言ったんだ、「“花嫁”の首をすげ替えろ」とな」
咲耶を見ながら片方の親指を立て、自らの首のあたりで横に引くしぐさをする。
不遜な虎次郎の態度に、咲耶も負けじと言い返す。
「……そうらしいですね。
和彰の『儀式』を三度で打ち切ろうとしたり、“花嫁”の命をムダに奪おうとしたり……。
ずい分と堪え性のない方だとうかがってましたけど、全部事実ですか」
「……赤虎か。あいつは出不精で潔癖なうえに、頭でっかちだからな。まったく……使い途がない」
咲耶の嫌味を受け流し、虎次郎は息をつきながら頭を横に振る。
話がかみ合わないように思えるのは、咲耶の気のせいだろうか?
「そして、そんな赤虎の情報によって、お前は脱獄したわけだ。あれは、俺にとっては好都合だったがな」
「え?」
「ユキは、俺の考えを諌めていたんだ。
お前のいう通り、気が短いのが俺の悪いところだなんだと諭し、お前を牢から解き放つつもりでな。
そんななか、お前が脱獄したとの報せが届いた。これにはユキも、追捕の令を出さないわけにはいかなくなった。
なぜなら、脱獄した者を野に放ったままでは、“国司”を始め、この国の官吏の力不足を、内外に示すことになるからだ。
俺たちが追捕の令を下さずにいれば、下の者からの突き上げがくるのは明白だった。
……ユキは、何より秩序を重んじる。秩序を乱した者を捕らえるのは、やぶさかではないからな。