神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
《七》乞い、慕う心──ひと晩かけて、仲良くしよう?
ひんやりとした手が、頬に触れる。心地よい感覚に、咲耶はまぶたを上げようとするが、それは半ばで止まってしまった。
ぼやけた視界に、人の形をした影が入ってくる。
「──なぜ、私を呼ばなかった」
のぞきこむ影が放つ、低い声音。問いかけというよりも、自責の念にかられた響きの声に、咲耶は口を開く。
「……ずあ……」
呼びかけは、名前にはならなかった。だが、思うように出ない声は、本人には伝わったようだ。
「──遅い」
言った唇があえぐ唇をふさぎ、冷たい指先が額に落ちた髪を梳くようになでる。
唇も指も、咲耶の熱を奪う勢いで冷たいのに、くちづけも愛撫も、泣きたくなるほどに優しいものだった。
身体は未だ思うように動かせないが、和彰の表情に乏しい整った容貌だけは、咲耶の目に、はっきりと映るようになる。
犬朗の言っていた「生命力を分けてもらう」という意味が、やっと解った気がした。
「……禁足地に入ったと聞いた。あそこには、まからんやまぐもやふなたかざんはがちがいる。
いずれも、神経に害を及ぼす毒をもち、刺されれば命はないと聞く。だからこその『禁足地』なのだ。
それをお前は──」
聞き慣れない単語を交えながら、和彰が説明をし始める。
孝太の父親を救出に行った山中で“神力”を奮った。
思えば、集中して治癒にあたったあの時、和彰のいう『なんたらかんたら』に刺されたのであろう。
自分の身に起こったことは解ったが──。
(この状況で小言を言われるなんて……)
次第にはっきりとする意識のなか、咲耶はふたたび気を失いたい思いにかられた。
と、同時に、身体の芯を襲うかのような鋭い痛みが、大きな痙攣を引き起こした。
(……っ……!)
力を入れて痛みに対抗しようとするも、思うように力が入らない。そこへまた、痛みがやってくる。
朦朧とした意識のなかでも、幾度となく繰り返された激痛。
ぼやけた視界に、人の形をした影が入ってくる。
「──なぜ、私を呼ばなかった」
のぞきこむ影が放つ、低い声音。問いかけというよりも、自責の念にかられた響きの声に、咲耶は口を開く。
「……ずあ……」
呼びかけは、名前にはならなかった。だが、思うように出ない声は、本人には伝わったようだ。
「──遅い」
言った唇があえぐ唇をふさぎ、冷たい指先が額に落ちた髪を梳くようになでる。
唇も指も、咲耶の熱を奪う勢いで冷たいのに、くちづけも愛撫も、泣きたくなるほどに優しいものだった。
身体は未だ思うように動かせないが、和彰の表情に乏しい整った容貌だけは、咲耶の目に、はっきりと映るようになる。
犬朗の言っていた「生命力を分けてもらう」という意味が、やっと解った気がした。
「……禁足地に入ったと聞いた。あそこには、まからんやまぐもやふなたかざんはがちがいる。
いずれも、神経に害を及ぼす毒をもち、刺されれば命はないと聞く。だからこその『禁足地』なのだ。
それをお前は──」
聞き慣れない単語を交えながら、和彰が説明をし始める。
孝太の父親を救出に行った山中で“神力”を奮った。
思えば、集中して治癒にあたったあの時、和彰のいう『なんたらかんたら』に刺されたのであろう。
自分の身に起こったことは解ったが──。
(この状況で小言を言われるなんて……)
次第にはっきりとする意識のなか、咲耶はふたたび気を失いたい思いにかられた。
と、同時に、身体の芯を襲うかのような鋭い痛みが、大きな痙攣を引き起こした。
(……っ……!)
力を入れて痛みに対抗しようとするも、思うように力が入らない。そこへまた、痛みがやってくる。
朦朧とした意識のなかでも、幾度となく繰り返された激痛。