神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
抵抗する気力だけは戻ったためか、よりいっそう苦痛の度合いが増し、思うようにならない身体から痛みが去ると疲労感だけが残った。

「すぐに楽にする」

抑揚なく告げたかと思うと、和彰の右手が咲耶の肩口へと伸ばされた。
布地の上から何かを確かめるように、そろえた指先が咲耶の身体の線をたどる。

(ちょっ……待っ……!)

肩から二の腕、手首から指先へとその辺りまでは、まだ良かった。
だが、布の上からとはいえ、単衣(ひとえ)の薄い生地ごしに胸を触られるのには、抵抗を覚えた。

──しかし。

和彰の長い指は、特になんの関心もなく、咲耶のふくらみを通過していった。
……それはそれで、咲耶としては複雑な心境になる。

(……もうちょっと、なんかこう……ない、ワケ?)

びくん、と、身体に走る震えをよそに、咲耶の思考だけは身体の不調とは別のところで、恥ずかしさともどかしさを感じていた。

そんな咲耶の前で、和彰は普段どおりの冷静さで、咲耶の身体を観察するように、たどっていく。
左脚に差し掛かり、ふと指先が止まった。

「──やっ……!」

短い悲鳴をあげる咲耶を、和彰が一瞥(いちべつ)する。

「お前を()やせるのは、私しかいない」

事もなげに言い、単衣のすそから手を差し入れ、はだけさせる。
ぐいと持ち上げられた左の大腿(だいたい)は、咲耶が見た時とは明らかに違うものへと変化していた。

(ヤダ……なにコレっ……)

内ももからひざがしらにかけて、ぽつんとした赤い虫刺されのようなものが三ヶ所あったはずが、赤黒い水ぶくれの塊となり、大腿に広がっている。
広範囲に渡るそれは、目を背けたくなるような状態だった。

咲耶自身でさえ「気持ち悪い」と感じるそこへ、和彰が顔を寄せる。
半ば伏せられた瞳と近づく唇には、みじんのためらいもない。

舌が、水疱(すいほう)に触れた。和彰の綺麗な顔が自分の太ももにある醜い『ソレ』に近づく様に、咲耶はいたたまれず声をあげる。

「かずあきっ」
「──────……黙れ」

射るような眼差しと冷ややかなひとことで、咲耶は和彰に瞬殺された。
息をついて、ふたたび和彰は咲耶の左大腿に顔を伏せる。
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