神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
「ううん。寝るだけ(・・・・)じゃないわよ?
私……もっと和彰のことが知りたいし、和彰にも私のこと、知ってほしいから」

言いながら和彰を引き寄せ、後ろへと体重をかける。高鳴る胸の鼓動を落ち着かせるように息をつき、和彰に微笑んだ。

「……ひと晩かけて、仲良くしよう?」

誘う言葉が、はたして正確に伝わるかどうか。
それは咲耶にも分からなかったが、だからこそ言葉通りに、ふたりの距離を縮めてみる価値はある気がした。

和彰は、ややしばらくのあいだ咲耶を見下ろしていたが、やがて思いきったように口を開いた。

「──それが、お前の望みなら叶えたい」

咲耶の手をつかみ寄せ、自らの口もとに押しあてる。触れる体温が、先ほどよりも高く感じられるのは、気のせいだろうか。

ぽすん、と、背中から落ちた(しとね)の感触と、咲耶に向けられる和彰の微笑み。
和彰の首の後ろから離れた咲耶の片腕に、そのまま和彰の片手が寄り添うように重ねられた。

「お前の望みは、私の望みでもある。
ひと晩かけて、お前のことを私に、教えてくれ……」

告げる唇が甘やかな吐息を放ち、応じる唇からはまた、押し殺したせつなげなささやきが夜通しつむがれる──。





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