神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
囚われの神女(めがみ)

《一》後朝──お前が我らにとって、かけがえのない存在だからだ。

人肌のぬくもりと、けだるい全身を感じながら目覚めれば、和彰の腕のなかにいた。

(きれいな顔……)

改めて、まじまじと寝顔を見つめてしまう。
整いすぎて冷たくも見える面差しは、最初こそ「感じ悪い」と思ったものだが、いまは──。

(この顔と、あの声と)

それから、咲耶の身をつつみこむこの腕と、触れる体温とが。咲耶を、いままでにない充足感へと導いたのだ。

(──って! 朝になると、なんでこんなに恥ずかしいの~ッ!)

ふいに、脳裏に浮かんだ『一夜の出来事』に、咲耶は和彰の胸もとに顔を寄せ、赤面した。冷静に考えると色々した(・・・・)し、言った気がする。

「……姫さま? お加減は、いかがですか?」

ためらいがちに部屋の外からかけられた声に、咲耶の心臓が思いきり跳ねあがる。
驚いて声が出ない咲耶の頭の上で、低い声が放たれた。

「──私も咲耶も、もうしばらく休む。声をかけるまで、下がっていろ」
「……承知いたしました」

驚いたような気配のあと、椿は部屋前から立ち去ったようだった。
咲耶は、気まずい思いで顔を上向かせた。

「……和彰、起きていたの?」
「お前の身体の震えで目覚めた。具合が悪いのか?」
「別に、ちょっとダルいくらいで特にどこも──」

ゆるめた腕を上げ、和彰の手のひらが咲耶の頬に触れ、次いであごに移る。寄せられた唇が、咲耶の唇を愛おしんだ。

「……楽になったか?」

間近で感じる息遣いがこそばゆく、咲耶の胸のうちを甘く染めあげた。
ただただ、咲耶はうなずいて見せて──言葉の代わりに、和彰を抱きしめる。

(朝から、また仲良く(・・・)してしまった……)

我に返れば恥ずかしいのに、和彰に触れられるたび、衝動が押さえきれない。
なごり惜しそうに咲耶を離さない和彰の腕から、無理やり抜け出て咲耶は手水(ちょうず)場に向かう。

「──っつう! テンテン、今のはすげぇ効いたぜ。もちっと手加減してくれよぉ……」
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