神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
「お前を護りきれなかったことを悔いていた。私に処分を求めてきたが、あの者を処したところで何にもならぬ。捨て置いた。
あのような弱い束縛(・・・・)を甘んじて受け入れているのは、何かしら自らを律しておきたいからだろう。
違うか?」

理路整然とした和彰の物言いに、咲耶はぐうの音も出なくなる。言われてみれば、その通りだ。
そして、和彰にしても犬朗の心中を察したからこそ、あえて呼ばず触れず(・・・・・・)にいたのだろう。

「なんか……犬朗にも和彰にも、悪いことしちゃったね」
「悪いこと?」

けげんそうに眉を寄せる和彰に、咲耶は素直にうなずいた。

「うん。だって……心配させたあげくに、私の不注意のせいで自分を責めてるわけでしょ?」

和彰は、大きく息をついた。不愉快さを全面に出して言う。

「……それは、お前が我らにとって、かけがえのない存在だからだ。悪いこととは、違う。
お前は、他者には必要以上に気を遣うのに、己に対してはあきれるほど無頓着(むとんちゃく)だ。もっと、お前自身を大切にしろ」

怒ったような表情を向けられ、頬に大きな手のひらが添えられる。
伝わるぬくもりに、和彰の愛情と間接的な犬朗の想いを感じ、咲耶は満たされながら微笑んだ。

「───ありがとう、和彰」





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