神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
「お前とは契りを交わした。それは当然のことだ」

(って、一緒に寝るんかいっ!)

心のなかで突っ込む咲耶を完全に無視して、ハクコは咲耶の布団に潜り込んできた。

「ちょっ……待っ……──」

思わず布団から抜け出しかけた咲耶だが、もぞもぞと白い虎がすり寄ってくるのが見えて、ホッと息をついた。

(なんだ、小トラになってんじゃん……)

近づく小さな生き物に、咲耶は手を伸ばし、なでてやる。

『……何だ』
「なんだ、って……。猫みたいで、つい……ダメ?」
『……よく、分からない……』

ハクコは目を閉じていたが、咲耶の内側に響く声は、困惑を伝えてきた。

『私は、今まで人から撫でられたことはない。人に寄り添ったこともない。
人は、私を疎ましいと思うらしい。それは、私が人でも獣でもないからだろう。──お前もそうではないのか』

咲耶は、思わずハクコを見た。すると、白い獣の青い瞳も、見返してきた。

「あの……私、いま、一緒の布団に入ってるんですけど……」
『そうだな』
「あなたのこと嫌だったら、布団出てますけど……」
『そうか。それが、契るというものなのかも知れない』
「は?」
『契りを交わすことによって、お前は私を受け入れられるようになったのだろう。──もう眠る。声をかけるな』

くるり、と、その肢体を反転させ身体を丸めると、ハクコは本当に眠りについたようだった。

(なんなの、この勝手な小トラは……!)

毒づいて、けれどもやはりその小さな獣は愛おしく、咲耶は白と黒の毛並みに触れ、そっとなでてやる。
ややして、ゴロゴロとのどを鳴らすのが聞こえ、そのまま眠りについた。

       *

ゴロゴロと、獣がのどを鳴らしている。

「──規則ですから。契約時にも、きちんと用紙をお渡ししたはずです」
「だけど……生き物をそんな急に……簡単にはいきませんよ」
「規則は、規則です。今月中にどうにかして下さい。できなければ、退去していただきますので、そのつもりで」
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