神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
あからさまにがっかりとした表情を浮かべる美穂に、相談する相手を間違えたかもしれないと、咲耶は後悔をする。

(なんとなく恥ずかしくて、茜さんには言いづらいと思ったけど……)

口調といい見目といい、茜はある意味『女性的』だ。ただ、いかんせん性別は男であるからと、咲耶は躊躇(ちゅうちょ)してしまったのだが──。

「あんたさぁ、ハクとの間に子供ほしい?」
「は?」

話の流れや内容からすれば、あながち的外れな質問ではなかった。
にもかかわらず、咲耶がぽかんとしてしまったのは、咲耶自身のなかで直結された問題ではなかったからだろう。

(ヤダ、私ってば……!)

咲耶は急に、恥ずかしくなった。自分が、浅はかで愚かな人間に思えたからだ。

身体を交わすということが、生殖行為と同義であることはもちろん認識している。
だからこそ、こちらに来てから月経の訪れのない己の身体を、いぶかしんだのだ。

けれども、咲耶が和彰(かずあき)と『親密』になったのは、子を為すことを目的としたからではなく……単純に和彰自身を望んだ結果だった。
美穂風にあけすけなくいえば、情欲におぼれただけの話だ。

「……獣の仔、産むの怖い?」
「えっ? ……って、え?」

続けざまに問われた内容に、ついには咲耶の思考回路が寸断された。

真っ白な頭のまま、美穂を見返す。ぶしつけなほどまっすぐに咲耶の目を見つめる美穂がいた。
茶化すような物言いと、あけすけない言動に慣れていた咲耶には、目の前にいる美穂が別人に見えてしまう。

「あの……言ってる意味が……」
「解らない? 考えたくないからじゃなくて? だってさ、あいつら“化身(・・)できるようになると(・・・・・・・・・)“国獣”として遣わされるんだよ? それってつまり──逆にいえば獣の姿で生まれるってことじゃないの?」

矢継ぎ早にだされる問いは、容赦なかった。咲耶は息をのむ。

「か、考えたことは、確かになかったけど……」

美穂の眼差しにひるみながらも咲耶は懸命に思考力を取り戻す。
いままでの知識と経験から得たことをもとに、思ったことを口にした。

「怖い、とは、思わない。むしろ、嬉しい、かも……?」
「はあ?」
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