神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
「あ、いや、疑問系な言い方になったのは、単に私に出産経験がないからで……。その、テレビとか親の話とかからの想像で判断すれば、嬉しいと、思う」

正直、咲耶は、生まれたての人間の子供を「可愛い」と思ったことがない。サルに似てて、お世辞にもそうと思えなかった。

だが、一度だけ立ち合った猫の出産で、生まれてすぐの猫を見たとき「可愛い」とは思わなかったが庇護(ひご)欲に駆られたものだった。

普通なら「猫と人間を一緒にするな」と叱られるところだろうが、この場合、ネコ科の獣である『トラの仔』を美穂が指しているのだから、比較の対象は間違ってないはずだ。
そういった自身の過去の感情を振り返っての結論だったのだが。

「………………あんた、変わってるね」

心底あきれたように、美穂が息をつく。

咲耶は遠い目をした。久々に人から言われたが、やはり自分は『普通』から外れているのかもしれない。

「──まぁね。あたしも人のことは言えないんだけどさ。あんな男オンナの“花嫁”やってるくらいだし」

火箸で炭をつきながら、美穂はふーっ……と、深く息をついた。

「──これは、全部あいつからの受け売りなんだけどね。
あたしらって、外見上は歳とらないじゃん? ま、あんたは『コッチ』に来てから大して経ってないし、実感ないかもしんないけどさ。
あたしはもう、二十年以上も『この姿』なワケ。でさ、これって、どうやら成長が進まない状態らしいんだ。
んー……、肉体だけ時間が止まってるっていうのかな?」

ぱちん、と、火桶のなかで()ぜる音がした。
美穂に勧められ、一緒に暖まらせてもらっていた咲耶の頬は、すでに熱いくらいだった。

「それは……茜さんや和彰の『力』でって、こと?」
「力っていうより、あいついわく『定め』ってことらしいよ。
ようするに、あたしが女であいつが“神獣”だってことと同じで、最初から決められたことなんだって。
つまり、事実は変えようがないことだから、それ以上でもそれ以下でもない……」

そこで美穂は疲れたような表情をして、立てた片方のひざにあごをのせた。
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