神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
「って説明は、随分と昔にあいつからされたんだけど、あたしにはサッパリ。意味わかんないから、考えるのやめたんだよね」

お手上げだといった様子で美穂は肩をすくめた。咲耶も力なく笑って同意する。

「……ああ、うん。私も、解ったような解らないような……。
人間は、どこからやってきたんだろうとか、そういう話になっちゃうってことなのかな?」
「じゃない? めんどくさいから深く考えないできたけどさ。
で、それと同様に、あたしがあいつとシたからって、すぐに子供ができるわけじゃないんだって」

美穂の言葉に、咲耶は、なんとなく感じていたことを口にする。

「……身体の造りが違うってこと? 遺伝子の構造が違うから、そもそも受精されないとか?」
「は? そういう小難しいことじゃなくて──」

思いきり顔をしかめた美穂が、説明したことをまとめると。

『天』によって定められた時期がくると、自然に“神獣の仔”を授かるらしい。それがすなわち、咲耶たち“花嫁”が“役割”を終えることに近づく──。

「……あの。“役割”を終えると……私たちって……死んじゃう、の? いまは“神籍”にあるけど、そこから抜かれて(・・・・)しまうとか……?」

ここに来る道すがら犬貴(いぬき)に聞いた『彼の御方』とやらは、すでに現世──この世に居ないとのことだった。だから咲耶は、そう思ったのだが。

「あー違う違う。“役割”を終えるだけ(・・・・・)であって、死んだり殺されたりはしないって。
そこんとこは、あたしもハッキリあいつに問い(ただ)したから間違いないよ」

美穂がくれた否定の言葉に咲耶は安心したものの、今度は犬貴の話してくれた内容に矛盾を感じてしまった。
それで、美穂に質問を重ねたのだが──ついには音を上げられた。

「あんた、話すことが高度すぎるよ~。あいつ呼ぶ(・・)から直接訊いて」

言いながら美穂は、自身の懐をなでた。もこもこと出てきたチュン太に告げる。

つないで(・・・・)

手の甲にのったスズメが応えるように、鳴く。直後、その黒い小さなくちばしから、人の言葉が流れ出た。
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