神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
「いいわよ。和彰のお好きなように」
告げた瞬間、唇に触れるぬくもりと吐息。次いで、力強い腕に束縛される身体。幸せな息苦しさに、全身がつつみこまれる。
「……以前お前は『どちらの私』も好きだと言ってくれた。私も、それを嬉しく思った。
けれども今は、この姿でお前と共に在れる時間を、より嬉しく思う」
つむがれる低いささやきが熱を帯びて咲耶の耳もとをくすぐる。
情熱に比例しかすれた声音は、咲耶の抱える想いをさらに強め、確かなものとした。
「うん、私も……いまも、和彰が虎の姿でも人の姿でも、同じくらい好きだけど……。
でも、和彰が私の側にいて、こうやって抱きしめてくれるのが、すごく嬉しい」
そして──だからこそ自分は、責任を果たそうと思えるのかもしれない。
いつかくるはずの生命をつなぐ“役割”も。
『治癒と再生』を司る“神獣”の代行者としての“役割”も。
白と黒と金の糸が綾をなして、組まれる。
その三色を同時にまとうことは、“陽ノ元”では、白い“神獣”とその“花嫁”にしか許されない“禁色”であった。
(できた……!)
三色が合わさった組紐。細かい作業は昔から得意だったが、思っていたよりも上等な出来映えだ。
「姫さま」
部屋の外からかけられた声に、咲耶の顔がほころぶ。……やっと、渡すことができる。
だが、次の瞬間、咲耶の耳に入ったのは、良くない知らせだった。
「“国司”尊臣様より使者がおみえです」
反射的に顔がしかめっ面となる。盛大な溜息をついた。
(……なんて面の皮の厚い男なのっ……!)
尊臣──虎次郎という男は、咲耶をあれほど馬鹿にしておきながら、まだ関わるというのか。
それもこれも、犬朗がいみじくも言っていた『利用する価値』が、自分という“花嫁”にあるからだろうか?
仕方なく咲耶は、手にしていた組紐を、ふたたび小箱へとしまった。
告げた瞬間、唇に触れるぬくもりと吐息。次いで、力強い腕に束縛される身体。幸せな息苦しさに、全身がつつみこまれる。
「……以前お前は『どちらの私』も好きだと言ってくれた。私も、それを嬉しく思った。
けれども今は、この姿でお前と共に在れる時間を、より嬉しく思う」
つむがれる低いささやきが熱を帯びて咲耶の耳もとをくすぐる。
情熱に比例しかすれた声音は、咲耶の抱える想いをさらに強め、確かなものとした。
「うん、私も……いまも、和彰が虎の姿でも人の姿でも、同じくらい好きだけど……。
でも、和彰が私の側にいて、こうやって抱きしめてくれるのが、すごく嬉しい」
そして──だからこそ自分は、責任を果たそうと思えるのかもしれない。
いつかくるはずの生命をつなぐ“役割”も。
『治癒と再生』を司る“神獣”の代行者としての“役割”も。
白と黒と金の糸が綾をなして、組まれる。
その三色を同時にまとうことは、“陽ノ元”では、白い“神獣”とその“花嫁”にしか許されない“禁色”であった。
(できた……!)
三色が合わさった組紐。細かい作業は昔から得意だったが、思っていたよりも上等な出来映えだ。
「姫さま」
部屋の外からかけられた声に、咲耶の顔がほころぶ。……やっと、渡すことができる。
だが、次の瞬間、咲耶の耳に入ったのは、良くない知らせだった。
「“国司”尊臣様より使者がおみえです」
反射的に顔がしかめっ面となる。盛大な溜息をついた。
(……なんて面の皮の厚い男なのっ……!)
尊臣──虎次郎という男は、咲耶をあれほど馬鹿にしておきながら、まだ関わるというのか。
それもこれも、犬朗がいみじくも言っていた『利用する価値』が、自分という“花嫁”にあるからだろうか?
仕方なく咲耶は、手にしていた組紐を、ふたたび小箱へとしまった。